松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

専門家より米政府優先 水際対策は政治的ポーズでしかない


 新型コロナウイルスの集団感染が発生しているクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」についてアメリカ政府が自国民をチャーター機で帰国させると決定したことは、乗客乗員を船内にとどめるとした日本政府の対策に疑問を呈する形となった。
 その決定を受けて2月17日に、アメリカ人乗客ら300人余りが羽田空港からチャーター機に乗った。比較的大掛かりな集団の首都圏移動だったわけだが、このウイルスが空気感染したという報告はなく、適切に対応すれば恐れることではない。
 日本政府は2月19日には乗客乗員の下船を認める方針を示しているが、この乗客乗員を船内にとどめるとした政府のクルーズ船対策には感染症の専門家から異論が出ていた。2月9日のNHK日曜討論では、専門家が直接、加藤勝信厚労大臣に対応の見直しを求めている。
 番組で国立感染症研究所で感染症情報センター長だった岡部信彦氏は、「(船内は)濃厚接触が多い」として、「軽症な方をいつまでも拘束するのではなく柔軟な対応が必要だ。高齢者、持病のあるハイリスクな方には重点的に対応するという、良い意味での分け隔てが重要」と指摘している。
 また、元WHO西太平洋地域事務局長で、SARSに対応した経験を持つ尾身茂氏も、「希望者は船を下りて対応する必要がある」と指摘。その理由として、「船内にとどめることが目的ではない。感染した人と感染していない人との接触を断つことが目的」だからだと指摘している。
 2人の専門家から、船内に閉じ込めたままでの対応に疑問が出されたわけだ。ところが、加藤大臣は、「2週間を念頭に(船内に)滞在をしていただく」を繰り返した。司会の伊藤雅之NHK解説副委員長も「見直すべきではないか?」と問うたが、加藤大臣の発言は変わらなかった。
 その状況は、私には異様に見えた。既に、このウイルスをめぐっては、専門家の指摘として、感染力はインフルエンザと同等かそれ以上に強い半面、致死率は決して高くはなく、重症化した感染者に適切に対応することが重要との判断が示されていた。それを踏まえての専門家の提言であり、船内に閉じ込めておくという政府の対応に合理性があるのか疑問だった。
 アメリカ政府の判断は、その点を突いたものといえる。つまり、日本政府の判断は、尾身氏の言葉を借りれば、「船内にとどめることが目的」で、乗客乗員に感染が広がるのはある程度はやむを得ないというものに、アメリカ政府には映ったのだろう。
 さらに合理性に欠けるのは、専門家の指摘は排除しておいて、アメリカ政府から言われたら乗客乗員の下船を認めるという対応だ。専門家の意見より政治が優先するのでは、水際対策は政治的なポーズとも受け取られてしまう。加藤大臣は2月16日の日曜討論にも続けて出た。その番組の最後で専門家の方の意見を踏まえて先手先手で対応したいと話した。その姿勢を1週間前に見たかった。
 ところで、この2回の番組で加藤大臣がクルーズ船の名称を言い間違える場面が散見された。船名の言い間違いは許されても、対応の間違いは許されない。
(日刊ゲンダイ)
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