松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

声楽レッスン Hi-Cを楽に出す方法


声楽レッスン Hi-Cを楽に出す方法


バーバラ・ボニー、スーパーオペラレッスンに思う


NHK教育で放送されたバーバラ・ボニーのスーパーオペラレッスンは以前に見た事はあるが、YouTubeにアップされているのを見返してみると、いろんな問題点があるのに気付かされる。
もともと公開レッスンというものは一つのショウであって、僅かな時間で歌唱技術の基本的な問題なぞ解決する筈もない。このボエームのロドルフォのアリアにしても受講者のテノールが最後のHigh Cでひっくり返るところから始まるが、彼女はアドバイスとして[a]の母音を[e]のように明るく(この場合平べったくというべきか)して解決策を提案した。

彼女は暗い[a]の母音を発音してみせるが、これは顎の落とし方が間違っているだけで、顎は顎骨の形状からしても垂直に落ちるものではなく、下顎が手前に半円を描きながら落ちるのであって、これを無理に真下に引き下ろそうとすれば、当然舌は硬くなり[a]の母音も暗い響きとなってしまう。彼女はこれをやってみせる。

更に[e]の母音についても彼女の勘違いがあり、[e]は[a]の母音から舌先が上方を向きながら舌を前方に押し出してゆくことで美しい響きの[e]は完成する。このように顎を上げて口腔を狭くして[e]を発音するものではない。

 ネトレプコの【e】

本来はこのHigh Cを歌うためにはアクート唱法を薦めなければ根本的な解決はありえない。何故ならばこの曲はプッチーニによって作曲されたものだから、ベルカント・オペラ時代のファルセットな出し方では受け入れられず、当然アクートなHigh Cが求められる。
受講者はひっくり返った直後、ファルセットでHigh Cを歌ってみせるが、寧ろこのファルセットからアクートへ誘導するのが本筋の教育法というものではなかろうか。その場凌ぎの明るい発音(薄っぺらな発音というべきか)でこのHigh Cを乗り切ろうとしたところに彼女の指導力の限界を感じてしまう。勿論僅か数十分でアクートの技術が習得できるものではない事は百も承知だ。それだけにこれらのショーアップされた公開レッスンという催し物の限界に見切りを付けざるをえない。
受講者は結果的に少し明るめ(薄め)の声でHigh Cを押し切って成功を収めたかに見えるが、基本的な問題は何も解決せず、すべては先送りされ、偶然出た怒鳴り声に近いHigh Cに観客が拍手しただけのお寒い結果が残る。
High Cが出たから良いじゃないかというかもしれぬが、受講者は何一つ習得する技術もなく置き去りにされているのだ。結局受講者のための公開レッスンではなく、バーバラ・ボニーのショータイムでしかなかった虚しさが残る。
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