Matsuo Atsuokiのブログ

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法、歌唱法。

国分博文著「アクート歌唱法の原理と実践」を読み解く 003

       


http://www.voglio.org/acuto.htm


[1]先ず下のC(ド)を嬌声で伸ばし、オクターブ上へレガートで跳躍する。
  この際上のCはファルセットで歌う。※C音ではなく任意の高さで大丈夫です。
[2]今度は口を軽く閉じて[1]と同じ事をやってみましょう?要するに上のCは鼻歌
  もしくはハミングになるはずです。
[3]今度は、口を開けて[2]と同じことをやってみましょう。
  口を開けた状態でハミングとはいかに?!要は口を開けても、軟口蓋を閉じれば

  口を開けていてもファルセットのハミングは出来ます。要するに響きは鼻腔だけで
  共鳴しているからです。
  ここまでは誰でも上手くいくと思います。
[4]今度は[3]の状態から僅かに軟口蓋を開けて下図の様に口腔の響きも加えて下さい。
  大概の男性は軟口蓋を開けて口腔へ呼気が流れた段階でファルセットのままに

  なってしまいます。しかし、極たまにファルセットにならずに口腔で響きが 
  増幅し「胸声域の上のポジション」に覚醒できる方もいます。
  ここが、パヴァロッティが3年間「アエイオウ」と取り組んだポジションと

  言えます。
この「嬌声域の上のポジション」が具体的になったら私のHPのヴォカリッツィのパーターンを練習してみることをお勧めします。これがアクートの本質です。(アクート歌唱法の原理と実践より)


私も国分氏のレッスンを受けていますが、やはり[4]のところが最も難しく、パヴァロッティがアリゴ・ポーラに3年間教えを受けた苦労が偲ばれます。要するに従来までの実声やファルセットとはあまりにもかけ離れた感覚的な問題だけに、この新しい倍音を身につけるのはかなりの覚悟が求められるのではないでしょうか。
ここで嬌声という言葉が出てきますが、一般的に嬌声とは女性のなまめかしい声を指しますので、男声のファルセトと考えざるをえません。
それに下のC音とあるのも恐らくC1の事でしょうがテノールにとってC1は胸声(実音)でもファルセットで出すのは至難の技ではないかと考えられます。
寧ろここはパッサッジョを挟んだ倍音の操作となるので、パッサッジョを超えた上のファルセットから下の嬌声を考えるべきではないでしょうか。
因みに男声のパッサッジョはBas=D〜Es、Bri=Es〜E、Ten=F〜Fisなので、下図のような跳躍になるのだと思います。


*飛躍的に高音域を広げるアッポッジョ・テクニック
ベルカント唱法とアクート唱法の違いについて述べて来ましたが、唯一共通し、しかも最も最も重要な技術がアッポッジョです。
ファルセットの高音域までアクートが広がります。


 *アッポッジョ(寄り掛り・支え)
 歌唱の基本は腹式呼吸とよく言われます。横隔膜を下げ、下腹に力を入れて背筋を意識しながら息を吐く、付随して丹田・恥骨・咽頭引下げ筋etc. 一声出すのに様々な器官に意識を張り巡らし、残った意識で歌も歌う、そして歌い始めた声が「喉声」であろうものならまったく腹式呼吸と結びつかない。
アッポジオとは作為的な力みや力づくの腹式呼吸ではなく、ブレスの度に「声の支え処」を生み出す呼吸の循環です。フレーズの最後まで想いを残し、次のフレーズが見えて来た瞬間、空気が流れ込む(ブレス)の感覚が大切です。
但し、これは「喉声」で歌っているうちは自覚できません。安易に喉声で歌わない歌唱センスも必要です。喉から声を外す感覚が「自覚できる」ことが前提となります。
アッポッジョによりかかる事でパッサッジョ域を超えると自然にアクートが生まれ、飛躍的に高音域が広がります。(アクート歌唱法の原理と実践より)


【アッポッジョに関する考察】
現在私はアクートについて国分氏に師事しておりますので、アッポッジョについて、それがベルカントとアクートに共通のものであるか否かは明言できませんが、ベルカントに於けるアッポッジョについて少しお話ししましょう。
人の声は音域が高くなるほど声帯は伸び、更に高い音になると声帯は短く変化しますが、言って見れば細く薄く伸びれば声帯の直径は細くなるので、より高い音に対応する事ができるでしょうし、更に高い音域になると小さく変化するのは、恰もフルートをピッコロに持ち変えるようなもので、短くなればその分高音域も出しやすくなろうというものです。
しかしこのような対処の仕方では高い音は出せても、同一の音色は望めません。歌を習ったことがない人がいきなり高音域を歌えば声は音域が高くなるにつれだんだん細く、しまいには子供の声のような音色になってしまうのも声帯が細くなり短くなった証なのです。
そこでベルカントを完成させたロッシーニは低音から高音まで均一な音色の声を求めました。「自然で美しい声」「声域の高低にわたって均質な声質」「注意深い訓練によって、高度に華麗な音楽を苦もなく発声できること」これこそがロッシーニがベルカントに求めた理念だったのです。
声域の高低にわたって均質な声質を保つために行われたメソッドとは声帯を細く伸ばしたり、薄くしたりする方法ではなく、声帯が収まっている甲状軟骨を前傾させることによって声帯全体の張力を強化することで高音域に対処する、言って見れば弦楽器の弦を巻き上げれば音は高くなるし、全体の長さに変化はないのですから、従来のように音色に変化をもたらすようなことはないことに着目したのです。そこで輪状甲状筋や胸骨甲状筋を駆使して音程が上がるのに反比例して声帯が収まっている甲状軟骨を前傾、つまり引き下げる動きを加えることによって音色の均一化を図りました。
歌の腹式呼吸は横隔膜が収縮し下方へ下がると、横隔膜に繋がった肺も下方へ引っ張られ、同時に胸郭も広がり吸気が行われます。また横隔膜の収縮が止むと、横隔膜は上方に戻るために繋がった肺も押し上げられ呼気が始まる、これが歌のブレスのメカニズムなのです。
このようにブレスは息を吸った以降、上方へ持ち上がることでスムーズなブレスが確保できますが、この時音程の跳躍があれば、意識的に胸骨甲状筋、つまり胸骨甲状筋などを積極的に駆使して下方へ引き下げ、胸骨甲状筋を前傾させて声帯全体の張力を強め音色の変化を最小限にとどめなければなりません。ブレスの横隔膜は上方へ、反対に音程の跳躍のための筋肉は下方へ、この相容れぬ動きがあればこそベルカントにおける「声域の高低にわたって均質な声質」が実現するのです。このメカニズムが声の支え、アッポッジョと呼ばれるようになりました。


*パッサッジョ
女性歌手がベルカント唱法で胸声から頭声へのなめらかな移行を可能にするのに対しベルカント唱法では胸声から上はファルセットになってしまう男性は、ファルセット域までも胸声で処理しようとし、パッサッジョが生じてしまいます。重要なのはジラーレとキューゾのコンビネーションでパッサッジョを生じさせない事です。
力づくの喉声で越えようとするのであれば、アクートの習得は一生かかっても難しいと言えます。
なぜパッサッジョが生まれてくるのか?それは胸声、つまり喉声で歌いとうそうとするからです。これは力づくの喉声発声も、正反対のアペルトも同じことです。
力づくの喉声パッサッジョも開き声のアペルトも、結局は胸声(喉声)の延長で歌おうとするからパッサッジョが発声し、そこを力づくか、開いてごまかして通過しようとするかの違いだけです。
喉声による力づくのパッサッジョでは過緊張がMaxに達すると二進も三進も行かず、ソプラクート紛いのファルセットに逃げるしかありません。その前に声、もしくは腹筋・背筋などの筋肉群に支障をきたします。
パッサッジョで一度開いたアペルトは、広がる一方でアクートな(鋭い)響きに集約されることはありません。根本が間違っています。パッサッジョはジラーレとキューゾのコンビネーションで越えていきます。力づくの喉声やアペルト、いわゆる胸声ではないのです。(アクート歌唱法の原理と実践より)

=続く=