松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

黒い星から来た歌手達 予告


ある有名なオペラ歌手と酒を酌み交わしながら、アクートの話が持ち上がった時、そのオペラ歌手はアクートに関する知識が全く無いことに気がつきました。そこで発声技術の話に水を向けてみると、今迄発声について考える事なく歌えてきたので関心が無いとの返事。それでいてその人は個人レッスンに携わっているとの事です。


音楽大学の同窓会で酒が回って場が盛り上がってくると必ず出てくる話題が発声法の話。ある意味プロ歌手の集団ですので皆さんは侃侃諤諤の議論が展開されるものとお思いでしょうが、然に非ず。皆鼻白んで話題が萎えてしまうのです。自分が最も得意とする専門分野である筈なのに何故なんでしょうね。


ある声楽界の大御所、誰もが大御所詣でのレッスンに馳せ参じます。ご利益に預かろうと私も訪ねてみました。一声歌ったところで、もっと響く声が出んのかと言われたので、力いっぱいのffで歌った所、黙って俯いたまま無言の時間が過ぎていきます。しばらくして今度は、声を響かしてみぃ、と再度の要求でしたが、こちらも声を響かせる術を知らないから教わりにきているのです。その後何事もなかったかのように持参した曲を歌ってレッスンは終了。結局声の響かせ方の秘訣を教わることができませんでした。


ある会合で発声技術の論理的な整合性について仲間と議論を戦わしている最中、発声の事で理屈ばかり捏ねているうちは、声は良くなららいわよ、と嘯いた女性歌手がいて、余りの発言に一同唖然として議論を中断してしまいました。


皆さんはプロの歌手達の生活について、さぞかし日がな一日声の鍛錬や歌の精進に明け暮れ、これらに関する論議を戦わしている、と思っておられるのではないでしょうか。ところが先程述べたエピソードの様なプロの歌手も存在するのです。一体この人達はどこの星からやって来たのだろう、とさえ思いたくなるのも無理からぬ事と言われても仕方のない話かもしれません。
昔から「聞くは一時の恥、聞かぬは末代の恥」という諺がありますが、日本に音楽学校が設立されたのが、1887年、大学に包括されたのが1949年、私が音大の門をくぐる僅か6年前の事でありました。こうなると発声技術の原理や本質など誰に問うても知らされていなかったのは寧ろ当然の成り行きであり、日本の声楽教育はまさに暗黒の時代から脱出できぬまま、もがき続けていたさなかにあったのかも知れません。そしてこの暗黒の時代に育った学生諸君は健気にも全国へ散り、日本の声楽界発展の為に努力を惜しまなかった。つまり何も知らされていない者が知らぬままに、後輩達に何かを教えようとした。結果発声技術の原理や本質などは空白のまま世の中に伝わる連鎖の現象が作り上げられたと考えられるのです。
この様にして黒い星から来た歌手達の増殖は続き、多数派となった今、声楽界の代表として日本の声楽王国に君臨しているのです。
これは単なる私の妄想ではありません。知らぬ事を知らぬままに次の世代に受け継がせてゆく恐ろしさ、教育が犯す重大な罪をこのまま知らぬふりを決め込んで放置したまま見過ごして良いのでしょうか。
新春から毎週連載でこの「黒い星から来た歌手達」を54回にわたって掲載しようと考えています。私の80年余を費やした日本声楽界の実話にお目通し頂ければ恐悦至極に存じます。
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