松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

黒い星から来た歌手達 第16回 やはり原点に戻りましょう


2019年、年も開け、元号も新しくなり、早々と今年は桜も咲いて日本中が順風満帆の滑り出しに見えますが、平成の30年間、日本の辿った道は確かだったのでしょうか。何事も行方が不確かな時は一度立ち止まって振り返ってみるのが宜しいのではないかと思います。Re(再び) spect(見る)つまり振り返る、から一目置く、尊敬すると云う言葉が生まれた事からも分かる筈です。
ところで今日のお題目は声区、声の区分の原点について考えてみたいと思います。
声種とは声の種類、ソプラノ、アルト、など人の声の種類を指しますが、声区とは音域による声の種類、例えば地声、裏声、など音域によって変わる声の呼び名と考えて頂ければ宜しいかと思います。
子供の頃は男女とも中性の声の響きですが、大きくなるにつれホルモンの関係から変声期(声変わり)を迎えます。特に男性の場合、声帯の長さが17mm〜23mm、(女性は11mm〜17mm)と女性の1.5倍程の長さのため、女性のように音域が高くなれば自ずと頭声と呼ばれる声に変化するのは困難を伴う事になります。
この女性の頭声についても、現在の声区の認識では女性の実声と位置付けられていますが、何をもって実声と言えるのか、それ以前に女性の頭声を実声と呼ぶ科学的根拠、整合性に先ず注目しなければなりません。
例えば2声区に分けられている女性の声区に於いて、下の声区を地声、胸声、上の声区を裏声、頭声に分け、下の声区を実声、上の声区の内、裏声をファルセットと呼び、頭声は実声と名付けていますが、科学的な根拠も論理的整合性も全く無く、胸声(地声)は実声ですが、上の声区の裏声はファルセットに違いないとしても、いわゆる頭声は実声とは到底云われぬものであり、ファルセットで声唇(声帯筋)を働かせ、恰も実声の様な響きを確保した裏声でしかない認識がないために起こった混乱以外の何物でもないのです。
一方男性の声区では女性の様に胸声(実声)から頭声へのスムーズな変化が行われないのは恐らく声帯の長さの違いによるものでしょうが、パッサッジョを過ぎると大部分の男性はファルセットになってしまい、女性の様な確りとした響きの頭声は望むべくもありません。それでも中には声帯の短い人が居て、胸声で(変声期を過ぎた大人の実声)声帯伸展を行いながら高音域をクリアしたり、ファルセットと胸声の中間的な存在でもある、ミックスボイスで高音域への挑戦を試みたりするのですが、歴史的な観点からみれば、ベルカントからヴェリズモ運動が起こった時代に生まれた、アクート唱法を身に付ける事が最も歴史的な流れから云っても、論理的整合性から云っても正しい選択なのではないのでしょうか。
つまり女性の頭声が裏声の域を超え、恰も女性の実声と呼ばれる様に育っていったが如く、男性の頭声とも云えるアクートの響きは長い声帯を持つ者だけが手に入れられる第二の頭声として生まれてきた歴史的な背景を無視する訳にはいかないのです。
女性の頭声と男性のアクートとは全く違うものだとする論議もあるようですが、原理は真に似たようなもので、一卵性双生児と二卵性双生児の違いぐらいのものなのです。
この様に論義を進めて行くと女性の頭声はベルカント時代の華やかで声域の高低にわたって均一な声質、と歌われた特徴から更に進化した、声帯伸展に頼る声の均一性から脱却して、声唇(声帯筋)を十分に駆使した声門閉鎖、いわゆるChiusoのメカニズムに眼を付ける事によって、男性のファルセットがアクートに進化した様に、更にドラマティックな響きを持つ女性の頭声(アクート)が完成するに違いありません。

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