松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

黒い星から来た歌手達 第29回 オペラ生活40年を振り返る Ⅱ


二期会以外に参加したオペラ団体は東京室内歌劇場、東京オペラプロデュース、日本オペラ協会、岡田プロダクション、首都オペラ、藤沢市民オペラ、横浜シティーオペラなど数多くありますが、中でも藤沢市民オペラは私が藤沢市民であるために特別な思い入れがあったのも当然の成り行きかもしれません。
その中でも特に想い出に残るのが2000年藤沢市制60周年記念公演「ラ・ボエーム」でした。指揮広上淳一、演出栗山昌良。
この藤沢市民オペラは福永陽一郎さんが藤沢市文化担当参与就任に伴って作られたもので、日本最古の市民オペラであり、私が西南学院中学に在学していた頃、福永さんは西南学院高校在学の縁もあって、彼の主催する東京コラリアーズなどにも顔を出していました。
「ラ・ボエーム」ではベノアとアルチンドロの二役で出演しましたが、一幕の4人のボヘミアンとの遣り取りや、2幕のカフェ・モミュスの喧噪の中での芝居などはまさにオペラ歌手冥利に尽きる楽しさでした。
40年の間に出演したものはオペラだけではありません。1970年に始まった二期会オペレッタシリーズ「メリー・ウイドウ」は立川澄人、伊藤京子の2枚看板でスタートし、現在に至る迄引き継がれています。更に二期会は「蝙蝠」「三文オペラ」「チャルダッシュの女王」「学生王子」それにミュージカル「マイ・フェア・レディー」「サウンド・オブ・ミュージック」なども手掛け成功を収めました。
二期会のみならず日本オペレッタ協会の「パリの生活」サントリーホール公演「ファンタスティック」なども楽しい想い出です。
舞台ではありませんが、1966〜71年「歌のメリーゴーラウンド」1967〜74年「うたいましょう、ききましょう」でNHKTVのレギュラー番組に出演していました。
「歌のメリーゴーラウンド」はミッチー・ミラー合唱団をモデルにした日本版で、12名の男声ソリストが子供の歌を演奏する番組として登場したTV番組でした。
これら2本のTVレギュラーに出ていた数年間は週の殆どがNHK、食事も局の食堂と云う生活で内幸町から現在の渋谷移転までのNHKをつぶさに見て来た事になりましょう。
2003年横浜シティーオペラ「蝙蝠」のフランクを演じ終えて、然したる理由があっての話ではありませんが、これを以てオペラを引退しようと決めたのは本能の様なものでした。
振り返って見ると長い様で短い40年間だったとは誰でも云う台詞かも知れませんが、人生そのものが正にその通りなのですから。
この様に私の一生の大半はオペラに携わって来たのですが、博多の料亭の息子がこれほど長きに渡ってオペラの世界で生きて来られたとは、親ですら想像だにしなかったでしょう。
私は自分がやりたい一心でこの40年間を楽しく過ごしてきましたが、家族にとっては決して良い思いばかりでは無かった事が心残りではあります。と云うのも私がオペラに出ると云う事は即ち幾何かのチケットを販売する義務が生じ、場合によっては私の舞台を観て下さる方々をご招待する様なケースも出てくる事情がありますので、家計を切り盛りする者にとって、私のオペラ出演は赤字財政を覚悟すると云う事態を招くのです。
日本に於ける西洋音楽文化の歴史が浅い所為だと云われるかもしれませんが、億という経費が掛かる出し物を個人で負担すると云う方が、如何にも無謀な話であるのは誰にでも解る事ですがね。
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