松尾篤興のブログ「閑話放題」

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デーブ・スペクター「吉本」「日本の芸能事務所」「テレビ局との癒着」を全て語る


<吉本興業が揺れているが、これは吉本だけの問題ではない。日米の芸能事務所の違いにも詳しいデーブ・スペクターに独占インタビューした。「日本のテレビが面白くないのは、素人が多過ぎるから」そして「今は、日本の芸能界を変える最後のチャンス」>


日本最強のお笑い系芸能事務所である吉本興業が揺れている。「闇営業」問題をメディアで報じられ、会社から沈黙を命じられた芸人の宮迫博之と田村亮が先週、突然反論の記者会見を実施。会社上層部から圧力の存在を明かした。
問題は闇営業を超え、社長の発言から垣間見える芸人へのパワハラや所属事務所側の「搾取」、契約書の不在など拡散している。これは吉本興業、あるいは日本の芸能界特有の問題なのか。日本社会全体の問題ではないのか。
米ABCテレビの元プロデューサーで、子役としてアメリカで活躍した経験も持つタレントのデーブ・スペクターに本誌・小暮聡子が聞いた。


――今、吉本興業という企業をどう見ているか。


世界にはない企業だ。お笑い芸人を中心として、6000人もタレントを抱える芸能事務所というのは世界を見渡してもどこにもない。アメリカにもコメディアンは多いが、1つのエージェントに所属するタレントは多くて20~30人だ。
日本は、お笑いの文化が非常にユニーク。大阪そのものがお笑いの街として認知されていて、一般の人にも笑いをとれる話術と話芸がある。大阪弁自体が面白くて、お笑いに最高の方言だ。その、お笑いの街で生まれたのが吉本だ。そういう意味ではとてもユニークな会社だと言えるだろう。
大阪だけでなく東京や各地にいくつも専用の劇場を持っていて、お笑いだけでこれほど手広くやっている大企業は、日本だけでなく世界を見渡しても吉本だけだ。愛されていることは間違いない。戦前からの古い歴史があってここまで大きくなった。企業そのものとしてはリスペクトされてもおかしくない。


――今、吉本興業が企業として問題視され、若手の収入が低いことや、契約書の不在、上層部のパワハラとも言える発言が取り沙汰されている。これらに関してはどのように見ているか。


まず、日本の芸能事務所は異質で、アメリカなどとは全く違う。その中でも、吉本自体がさらに異質だ。日本の芸能事務所というのは、給料を月給制か歩合制にして、タレントを雇っている立場だ。タレントを商品として所属させ、営業といって売り込んで、事務所側がそのギャラの何割かをもらうというシステムだ。
アメリカは逆に、(モデル事務所は例外だが)基本的にはタレントや役者が自分でマネジメント(日本でいうマネージャー)を雇っている。どこかの事務所に入ったとしても、日本のように事務所が月給を支払うことはない。タレントには映画会社やテレビ局から直接ギャラが支払われ、タレントがそのギャラの中からエージェントにだいたい10%くらいを払う仕組みだ。弁護士もいるし、金額まで全てオープンにしている。
日本はどんぶり勘定的で、基本は事務所がギャラの本当の額をタレントに言わない。ギャラから何パーセントかを事務所が差し引いた額がタレントに支払われるという歩合制か、もしくはフラットな月給制だ。まだあまり売れていない人は月給が多いのだが、少し売れ始めると歩合になる。


*下手でも事務所の力でテレビに出られる
何が問題かというと、日本では吉本のように、あまり実力や才能がなくても事務所に所属できてしまうということだ。これは他の大手事務所にも言えることだが、例えば吉本には「NSC(吉本総合芸能学院)」という養成所があり、お笑いや何かの芸を教えていて、そこを出ると大半は自動的に事務所に所属できてしまう。
専門学校のようなものなので、もちろん学生は自分で安くはない月謝を払って通うわけだが、吉本側もそういう学生を集めるために広告塔としてデビュー前の素人でも何人かテレビに出すということをやっている。
そこで出てくるのが、事務所の力でタレントを使わせるというやり方だ。バーターと言って、テレビ局からAというすごくいいタレントを使いたいと言われたら、Aを使うならBとCも使えという、抱き合わせをさせる。本当はよくないのだが、そうすればあまり面白くない人でも事務所の力で出演することができてしまう。
ある意味でタレントたちが文句を言えないのは、松本人志さんや加藤浩次さんや友近さんなどすごく実力があって価値がある人はいいのだが、そうでもない人が事務所に所属しているだけで出られるという構造があるから。本当にそんな文句が言えるのか、ということになってくる。
これは日本にしかない事情で、吉本だけでなく他の事務所もタレントになりたい人を簡単に入れ過ぎる。だから人数が増えていく。この、所属タレントが多過ぎるということが根本的な大問題だ。
実力が足りないのに、テレビのバーターなどでたくさん出す。だが、そんなのを観ていたら視聴者はしらけるだろう。なんでこんなにつまんない人出してるの、と。人のこと言えないんですけど(笑)。日本にはタレントが多過ぎる、芸人と名乗る人が多過ぎる。「芸NO人」という言い方もあるくらいだ(笑)。


――アメリカの芸能界は実力社会なのか。


アメリカではオーディションが厳しい。コメディーで言えばスタンダップコメディーで下積みを重ねるが、非常に厳しくてなかなか上にあがっていけない。100%実力の世界で、事務所の力などないし、バーターという表現すらない。そういう概念がない。
アメリカにもエージェントはあるが、そこまで売り込んだりはしない。オーディションもあるし、ある程度売れている人にはマネジメントが付く。アメリカで役者やコメディアンの卵というのは誰からも保障がないから、ウエイターやウエイトレスなどいろいろやりながら下積みをして、稼げるようになってからアルバイトを辞める。


*日本は素人から「育てる」ことが好き
アナウンサーだってそう。日本のテレビ局は大学を卒業して、新卒でまったくの新人を入れているが、アメリカでは考えられない。全てローカル局から上がっていく仕組みで、いきなり大都市で全国放送のキャスターになるというのはあり得ない。
日本は大学を出てそのまま入ってくるので、結局はド素人。一からいろいろ教えて30そこそこでフリーになる。アメリカで30歳なんて、ようやく少し大きいところにやっと出られるくらい。
日本のおかしいところはそこだ。つまり素人芸、素人の段階でも受け入れてくれる。優しいと言えば優しいのだが、実力も経験もまだないのに入れてしまうという。何もできない12歳の子でも事務所に入れて、実習見習いみたいな形でゼロからスタートする。それはあまりよくない。
日本に特徴的なのは、例えばアイドルとか、見習い的に素人の段階でテレビに出させる。松田聖子さんとか、デビューしたてはぎこちなくて歌唱力もまだそれほどなくて、でもかわいいじゃないですか。それで、どんどん上手くなっていって、気が付くとものすごく上手。
アイドルを見て僕がいつも言っているのは、盆栽のようにゆっくりと育てていく楽しみがあると。アメリカでは出来上がった盆栽しか買わない(笑)。日本は、作っていくというそのプロセスを楽しんでいる。


――見ている側もそのプロセスを楽しんでいると。


大好きでしょう。子役から上がっていくとか、まだ下手だけどだんだん上手になっていくとか。ジャニーズだって、例えばSMAPもそうだが、最初はただの男性アイドルでも、いつの間にか演技もできるとか役者になっていたり、中居(正広)くんみたいに面白いMCもできるとか、目の前で変わっていく。視聴者も一緒に育てているので、それこそ観る側も「ファミリー」だ。だからあまりシビアにうるさく見ないという、いい面もある。
そもそも日本で「素人」というのは、悪い意味ではない。「新人」とか素人が大好きで、企業だっていまだに新卒を雇う。アメリカは経験がない人を好まない。キャスターになりたい人は必ずジャーナリズムスクールに行く。大学在学中にインターンをしたり、専門的な勉強をして職業訓練をしてから、就職する。
だが日本は漠然とした学歴しかなく、専門学校を出ている人のほうがすぐに役に立つくらいだ。メディアだけではなく商社など一般の企業でもいまだに新卒を雇って、入社してから社員教育をし、人事異動を繰り返して浅く広くいろいろなことを学んでいく。
日本社会がそうなっているので、芸能界はその延長線上にあるに過ぎない。だから違和感も抵抗もない。なぜアイドルとか下手な人たちに抵抗がないかというのは、日本社会にそういうベースがあるからだ。


*日本の事務所は売れなくなったベテランには優しい


――吉本の岡本昭彦社長が使った「ファミリー」という言葉について、その定義はさておき、日本の芸能事務所というのは吉本もそうだし、例えばジャニーズ事務所も、EXILEの事務所であるLDHなども、養成所やダンススクールを持っていて素人の段階から育てるということをしている。手をかけて育て、デビューさせる。一方で海外にはタレントを育成する、育ててくれるという文化はなく、既に売れている人や売れそうな人にエージェントが付いて、売れなくなったらばっさり切り捨てる。


だからこそ、いい人が残って、才能がない人は淘汰されるのでクオリティーが高い。日本で言うと、ダンスを教える分にはいい。ジャニーズだって上手いしトップクラスだ。
ジャニーズが少しだけ違うと思うのは、小学生や中学生など本当に小さいときから少しずつ学んでいくなかで、最初はそんなに出番がない。板前さんみたいに時間をかけて修行して、踊れるとか歌えるようになってからグループに入れて売り出していくシステムなので、そういうところは評価してもいいと思う。
日本の事務所の「ファミリー」には、いいところもある。タレントはギャラの何分の一かしかもらえなくて、事務所による搾取と言えば搾取だし、最初のうちは損している。ところが、そのタレントが歳を取ってあまりニーズがなくなっても、事務所がその人たちを切ることはしない。
事務所もその人にお世話になって儲けさせてもらったから、例えば元アイドルが40代や60代になっても所属させたまま月給を払い続ける。つまり、恩返しとして一種の生活保護をしている。タレントにとっては失業保険になっている。
事務所のホームページをよく見てみると、ベテランとして上のほうに載っているんですよ。みんな年功序列制だから(笑)。あんまり活躍はしていないけど、冷たくしないで残しておく。それで、それほど注目されない番組のいろんな枠に入れちゃう。20人、30人必要なひな壇がある、大特番番組などに何人か入れてあげる。
その人を残すことで会社は損している場合があるが、それこそファミリーとして残したままにしてあげる。事務所にもよるが、日本は後になってから面倒見がいい。


――日本は、売れなくなったからといって解雇はできないのか。


冷たすぎる、そんなことしたら。態度が悪いとかクレームばかりのタレントだったら解雇するが、基本的にはやらない。病死するまでいる。アメリカは月給なんて保障しないから、エージェントにとって負担にならない。稼げなくなったらその分、マネジメントに払わないだけの話だ。
逆にアメリカの場合だと、エージェントがなかなか仕事を探してくれないとか、うまく斡旋してくれないとか、交渉が上手でないとか、オーディション情報や新作映画やテレビシリーズの情報が遅いとか、チャンスを逃したとか、そういうときにはタレントが自分からマネジメント契約を解消して違うところに移籍する。自分が雇っているので、自分で決められる。日本とアメリカでは立場が逆だ。
アメリカの芸能界には労働組合もある。役者組合、ブロードウェーなど演劇の組合、僕も子役のときに入っていた米国俳優協会(Actor's Equity Association: AEA)もあるし、映画だったら映画俳優組合(Screen Actors Guild:SAG)、テレビやラジオ関係なら米国テレビ・ラジオ芸能人組合(American Federation of Television and Radio Artists : AFTRA)がある(2012年にSAGとAFTRAが合併し、現在はSAG-AFTRA)。
そのほかに音楽関係は別に組合があるなど、エンターテインメントの世界にものすごい数の組合がある。僕が今も入っている全米監督組合(Directors Guild of America: DGA)は、年金もあるし本当に素晴らしい。なぜ組合があるかというと、大昔は働く環境がよくなくて、搾取されたり労働条件が悪かった。今は組合に入っていると最低賃金が保障される。


*芸能事務所とテレビ局の癒着を生む「接待文化」


――日本の芸能人は組合に入っていないのか。


日本の芸能界には組合がない。ないほうがいいというのは、実力があっての組合なので、日本には才能がない人が多過ぎて、組合に入ったら事務所との上下関係が狂ってしまって事務所はますますやる気をなくすだろう。
今の日本の上下関係については直さなければいけないとみんな言っているのだが、本音は違うと思う。下手な人を使い続けるのなら、彼らが事務所の言いなりになるのは仕方がないとみんな分かっている。今はきれいごとを言っているだけ。


――今回の騒動をきっかけに、吉本を含め、日本の芸能界は変わると思うか。


変わらないと思う。一部の事務所、例えば小さいモデル事務所の中にはすごくシビアに、あまり人を入れないとか欧米的にやっているところもあるが、それはほんのわずか。僕は変わらないと思う。


――テレビ局が吉本の株を持っていることなど、吉本とテレビ局の関係もクローズアップされている。テレビ局が芸能事務所に、才能がある人しか使わない、と言うことはできないのか。


言えばいいのだが、言わない理由は簡単だ。もちろんテレビ局側もそうしたほうがいいと、たぶん常識的には分かっている。しかし、これは芸能界に限らないのだが、日本にはトップとの接待文化がある。
特に芸能界は接待文化。だって安倍総理が毎晩いろいろな人とご飯食べているくらいだ。そうすると、どうしてもなぁなぁに、ずぶずぶの関係になってしまう。表現は悪いが、癒着が出てくる。さりげない癒着、つまり忖度が多いと思う。
接待文化がある限り、事務所の意向が通るようになってしまう。広告代理店もスポンサーもみんな夜会うからいけない。僕は日本の社会をよくするには、夜間外出禁止令を作ったほうがいいと思っている。19時前に家に帰るようにしよう、と。会社の社長全員に警備員を付けて自宅に直帰しているか見張らせるんだと。あるいは足首にGPSをつけて、ちゃんと帰ったか分かるようにするとか。
もしくは、接待ではなくランチがいい。ハリウッドのやっていること全てがいいとは言わないが、ニューヨークなどはみんなランチかブレックファスト。接待は大きい。日本でテレビ局以外の企業でもいろいろな癒着が生まれるのは、夜に和食やお座敷に行くからだ。ゴルフ接待もある。
そういうことしていると、うちのあの子を使って、となってしまう。アメリカの場合は何が違うかと言うと、映画スタジオやテレビ局のトップ陣営というのはものすごい大金を稼いでいる。正社員というシステムがないので、ディズニーでもABCでも、日本円にすると億単位のお金をもらっている。彼らに接待しても喜ばない。
日本のテレビ局も給料は高額だが、それでも欧米と比べると桁が違うのでやっぱり接待に弱い。もちろん全てが悪いとは言わないが、接待文化によって結局ものごとを言えない空気が作られてしまう。


*日本のテレビ離れを止めるには今しかない


――デーブさんがいつも日本のテレビ文化について、忖度なく率直な意見を言っているのは、なぜなのか。


昔からそう言っているのは、日本のテレビが好きだから。文句を言いたいわけではない。自分はアメリカを見て育ってきているし、今は自分もプロダクションを経営していて日本とアメリカの状況どちらも見ているので、日本にもフェアプレーをやってほしいと思っているだけだ。
訳ありキャスティングをどうにかしたい。前は別に目をつぶっていてもよかったかもしれないが、今はテレビ離れが深刻だ。視聴者がどんどん減っている。ネットフリックスもHuluもあるし。ソーシャルメディアもあるし、テレビ以外に選択肢がたくさんある。
それでも、先進国の中で日本ほどいまだに地上波が好きな国はない。つまり今は、日本のテレビ界にとって最後のチャンスだ。これ以上沈まないように、タイタニックで言うともう目の前に氷山が見えている。タイタニックでは見えるのが遅過ぎたのだが、今は何十キロも離れた先でも双眼鏡で氷山が見えている段階。あと数秒でぶつかるわけではないので、やろうと思えばまだ旋回できる。
日本のテレビをよくするには、上手い人を使うこと。バーターとか事務所からの押し付けとか、事務所先行のキャスティングを断ること。使いたい人を使う。
今はテレビの話ばかりしていて大変失礼なのだが、イベントやCMやラジオや、モデルを使う雑誌も全部含めて、本来はギャラを支払うほうが決められる立場のはずだ。日本は事務所が強過ぎる。その中に、吉本がまた別格の存在としてある、ということだ。
僕は吉本も大好きで、好きだからこういうことを言っている。例えば役者で言うと、役所広司さんや亡くなられた樹木希林さんも大好き。本当に上手い。そういう素晴らしい役者がいるのにどうして役者と言えない人を使うのか、と怒るのは、日本のテレビをよくしたいからだ。
(NEWSweek)
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