松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

在野の専門家の方が正しい 原発事故と同じ展開

 


 女優の岡江久美子さん(享年63)が新型コロナウイルス肺炎で急逝したニュースは衝撃だった。
 NHKの人気クイズ番組だった「連想ゲーム」の紅組レギュラーを務め、民放テレビのドラマや情報番組に出演。明るい笑顔はお茶の間の話題を集めた。昨年末に受けた乳がん手術の術後放射線治療で免疫力が低下していたという岡江さん。免疫力が落ちた高齢者や基礎疾患を持つ人にとって新型コロナは改めて恐ろしい存在だと認識させられたが、悔やまれるのはもっと早く入院していたら状況は変わっていたのではないかということだ。
 岡江さんは4月3日に発熱が確認されたものの、医師から「4、5日様子を見るように」と言われ、自宅で待機。その後、容体が急変したという。
 同様のケースは埼玉県でも見られた。新型コロナに感染した50代の男性が「軽症」と診断されて自宅で待機。しかし、症状が急激に悪化し、搬送先の病院で死亡が確認されたのだ。
 自宅療養の場合、保健所が電話などで感染者の体温、咳などの症状の有無を聞き取り、悪化したら入院を促すのだが、すでに発熱などの症状が出ている患者自身が体調を管理するのは限界があるだろう。岡江さんら自宅療養中に容体が悪化する例が相次いだことを受け、厚労省はおととい(23日)、軽症者や無症状者についても原則、医療機器の備わったホテルなどの宿泊施設で療養する方針に切り替えたが、遅すぎる対応と言わざるを得ない。


■日本の新型コロナ対策は「群盲象を評す」
「どうしても自宅にいる必要がある人を除いて、基本的に宿泊療養を考えてほしい」
 加藤厚労相は記者団にこう語っていたが、クルーズ船や医療施設で発生した集団感染の展開を考えれば、もともと自宅療養で感染防護という方針自体が間違いだったと言っていい。重症患者の増加に備え、医療崩壊を起こさないための緊急的な措置だったとはいえ、政府、自治体が早期に医師や看護師が常駐するホテルを確保し、軽症者であっても待機、隔離できる仕組みを整えていれば、急激な症状悪化にも応じることができたからだ。これまでの政府、自治体の体制不備という不作為によって尊い命が失われた事実は重いと指摘せざるを得ない。
 軽症者は宿泊療養し、万が一、症状が悪化した場合は医療施設で治療する――。医療崩壊を防ぎ、感染拡大を止める手だてはそれしかない。そのために何よりも重要なことは、感染者を早期発見し、隔離するためのPCR検査(遺伝子検査)の体制を拡充することだが、PCR検査に極めて消極的だったのが日本政府であり、専門家の面々だ。
 これまでの国の指針によると、PCR検査は「37・5度以上の発熱が4日以上続いた場合」などに限られていたため、医師や感染の疑いを持った人がPCR検査を求めても認められなかった。厚労省は今になってPCR検査の拡充を各都道府県に通知したが、この致命的な検査の遅れが今の市中感染を招いたのだ。元東京都衛生局職員で、医事ジャーナリストの志村岳氏がこう言う。
「とにかく厚労省の職員、専門家と呼ばれる人たちは現場を知らない。海外で公表される新型コロナの医療論文を読むと、そう感じざるを得ません。それほど、対応がトンチンカンです。要するに新型コロナについて冷静に分析して指示を出せる人材がいないのでしょう。群盲象を評す、ような状態なのです」
 政府や専門家は無能なのか、それとも本当のことを隠しているのか。共通しているのは、どちらも無責任体質だということだ。
「熱が出ても4日間、自宅で我慢しろと言ったわけではなく、普段病院に行かない人でも4日も熱が続くなら、ぜひ受診してくださいという意味で言ったのに、逆に受け取られた」
 新型コロナの感染者が自宅待機中に亡くなったニュースが報じられた22日。政府専門家会議のメンバーで、日本医師会常任理事の釜萢敏氏はこう発言していたが、今さら何を言っているのか。国の方針に沿って自宅待機し、容体が急変して亡くなった患者の家族が聞いたら怒り心頭に発するに違いない。専門家会議の副座長を務める尾身茂氏も日経新聞の2月27日付の座談会記事で、「(新型コロナは)発熱が4~5日続いた後に治る人がほとんどだが、悪化する人もいる。この段階ですぐに医師に相談して『PCR検査』を受ける。4日にしたのは、できるだけ早くウイルスを検出でき、トータルで効果が高いから」などと言っていた。そして新型コロナを封じ込めた中国政府の対応についても「感染拡大を防ぐだけが目的なら、中国と同じことをやればよい。
 しかし、人々の移動まで止める必要はない。もっと合理的な21世紀型の対策があるはずだ」なんて威張っていたのに、今や打ち出された対策は、全都道府県に緊急事態宣言を出して「ステイホーム(家で過ごせ)」だ。「ソーシャルディスタンス」はどんどん拡大し、安倍首相からは「オンライン帰省」などと言葉遊びの造語が飛び出す始末で、この対策の一体、どこが「合理的な21世紀型」なのか。


■原子力ムラの御用学者と変わらない
 対策が二転三転し、無責任発言が平気で飛び交う今の政府、専門家の姿を見ていると、9年前の福島原発事故が思い出される。あの時も放射線という目に見えない脅威と終息時期が見通せない恐怖の中で、専門家と称する御用学者が連日、「メルトダウンしていない」「原子炉はコントロールできている」「放射線は人体には直ちに影響がない」などと繰り返していた。
 しかし、ふたを開けてみればすべてがウソ。原子炉はメルトダウンし、とてもじゃないが今でもコントロールしているとは言い難い。当時、メルトダウンの可能性が高いと指摘していたのは京大原子炉実験所(現・京大複合原子力科学研究所)元助教の小出裕章氏だったが、新聞・テレビで大きく取り上げられていたのは「原子力ムラ」と呼ばれた御用学者たちだ。
 今回の新型コロナ禍についても、早期PCR検査の拡充を求めていたのは、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏ら、ほんの一握り。上氏らの指摘に対し、専門家会議の御用学者らは「PCR検査を増やせば希望者が医療機関に押し寄せ、医療現場が崩壊する」などと言い放ち、濃厚接触者を特定するクラスター(感染者集団)対策に固執したのだ。新型コロナの封じ込めに成功した韓国のように、PCR検査で早期発見、隔離を進めていれば、少なくとも今のような展開にはなっていなかっただろう。東京都の小池知事の会見に同席した国立国際医療研究センターの大曲貴夫国際感染症センター長も「(感染者の)8割の人は本当に軽い」とか言っていたが、どこまで真実か怪しいものだ。
 詰まるところ、原発事故の時と同じで、正しいのは、新型コロナに対しても政府や医療業界のバイアスが掛かった御用学者ではなく、客観的かつ冷静な在野の専門家だということだ。
 あらためて二転三転する今の政府、専門家の姿勢について、上氏に問うと、「ウソにウソを重ねてメチャクチャになっている」と苦笑いし、こう続けた。
「厚労省は新型コロナの毒性を見誤り、コレラやペストなど通常の感染症対策で乗り切れると思っていたのでしょう。しかし、韓国はMERS(中東呼吸器症候群)を体験しているため、早くから厳戒態勢を取った。街中を消毒していたのは、そのためです。しかし、日本の専門家はクラスター対策に固執して失敗し、今は責任逃れを始めている。専門家会議は機能不全で、厚労省や医系技官は暴走。この国の新型コロナ対応は空中分解してしまっています」
 安倍も取り巻きの御用学者も「間違えました。すみません」と言えない。一度決めたら、どんな愚策でも突き進む。悲劇に見舞われるのは国民だ。
(日刊ゲンダイ)
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