松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

「五輪のため」という狂気…皆が怯える2020年破滅への道


 わずか2週間の五輪のためにサマータイムを導入――。冗談だろうと思っていたら本気らしい。東京五輪組織委員会の森喜朗会長から導入の要請を受けていた安倍首相が7日、自民党に検討を指示したのだ。早速、自民党内では「岸田政調会長を中心に検討の枠組みをお盆前に発足させる」「党に特命委員会を設置するか、超党派の議員連盟をつくる」「法案は議員立法で提出」などの案が浮上している。早ければ秋の臨時国会で関連法案を審議し、19年の試験実施を目指すという。


 2020東京五輪は7月24日が開会式。日本列島が最も暑さに覆われる時季だ。今年の40度を超える異常な酷暑に海外メディアからも不安視され、慌てた森が安倍に会って、五輪期間中の時計を2時間早めることをゴリ押ししたのが先月27日。それから10日余りで安倍が導入の検討を指示したわけだが、そのスピード感は西日本豪雨の補正予算編成でこそ発揮されるべきだろう。臨時国会を開きたくないから、国民の生命と安全に関わる補正予算は放置するのに、東京五輪となると号令一下とは、どう考えてもおかしい。


 サマータイムを巡っては、第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストがきのう(8日)、約7000億円の経済効果というリポートを出しているものの、「中小企業等で労働時間の延長につながる労働強化の可能性」「体内時計が狂うことによる睡眠不足」「システム変更等の導入コスト負担や混乱」などを大きなリスクと指摘。


<東京五輪に向けた暑さ対策が目的なのであれば、効果が不透明でシステム等のトラブルリスクを伴うサマータイムを導入するよりも、競技時間の変更等で対応する方が国民の理解を得やすい>というもっともな結論だった。


 共産党の小池晃書記局長も「暑さ対策というならば、五輪を秋に行えばいい」と言っていたが、その通りで、わざわざ殺人猛暑の真夏に五輪をやること自体が間違っているのだ。打ち水にしろクールシェアにしろ、弥縫策のような暑さ対策しか出てこないこと自体、打つ手なし、の証左。それなのに、どうして真夏の開催を止められないのか、見直さないのか。


■メディアも経済界も取り込まれて無批判


 それは2020東京五輪が、邪な思惑で強引に誘致した国威発揚、政権維持のためのイベントだからである。


 東京に決定した2013年IOC総会。五輪は国ではなく都市が主体なのに、当時の猪瀬都知事以上に力が入っていたのが安倍で、「汚染水はコントロールされている」とウソをついてまで開催をもぎ取った。安倍のアタマにあったのは、「1964年の東京五輪をもう一度」だ。国民に高度経済成長を再現する夢を与え、国中が「ニッポン」「ニッポン」と叫んで一体化、思考停止に陥るさまが浮かんだことだろう。あれから5年、その思惑通りに進んでいる。メディアも経済界も取り込まれ、五輪も安倍政権も批判できない空気が日本中に蔓延している。


 広告代理店出身の作家・本間龍氏がこう言う。


「五輪組織委員会がすっかりメディアを抑え込んでいますからね。全国紙は全社が五輪スポンサーですし、クロスオーナーシップでテレビは新聞と系列化しています。だから『サマータイム導入検討』というニュースも事実を報じるだけで、それが一体、どういう意味を持つのか、検証する報道も出てこないのです。組織委には『顧問会議』『文化・教育委員会』『経済・テクノロジー委員会』などさまざまな委員会があって、数百人規模がメンバーになっています。当然、その中には各界の代表や企業の幹部などが綺羅星のごとく並んでいる。社会の指導的立場の人たちをほとんど取り込んでしまっているので、どんなにその場の思いつきのような猛暑対策が出てこようが、誰も批判しないわけです」


■首相にとってはレガシー、国民にはツケ回し


 2020東京五輪を巡り、この国がトチ狂った異常さを見せているのは、サマータイム導入の一件だけではない。


 マラソンコースは、路面温度の上昇を抑える特殊な舗装を施すが、そのために単純計算で79億円がつぎ込まれるという。五輪のために、東京都の年間の道路舗装費(今年度76億円)を上回る血税を使うとは愚の骨頂だ。


 そのくせ運営はボランティア頼み。会場案内やアテンドなど実に11万人を募集し、その膨大な人数をかき集めるため、文科省とスポーツ庁が全国の大学と高等専門学校に、学生がボランティアに積極的に参加できるよう、授業や試験日程の柔軟な対応を求める通知まで出す始末だ。


 しかも、無償の善意をお願いするのに、<10日以上の活動を基本><1日8時間程度><研修及び活動期間中における滞在先までの交通費及び宿泊は、自己負担・自己手配>といった「条件」まで設けられている。戦前の“学徒動員”を彷彿させると揶揄されても仕方がないだろう。


 特攻さながら、お国のために我慢して滅私奉公。少なからぬ国民が、そんな異様なムードに疑問を抱き始めているのではないか。


「サマータイムは虎の尾を踏むかもしれません。これまで五輪は東京だけのもので、北海道や九州など地方は無関係という感じでしたが、サマータイムは国民全体の生活に関係する。サマータイムが入り口となって、『大政翼賛会のような雰囲気の東京五輪はおかしいんじゃないか』『国が旗を振ってボランティアを集めるって、何か変だ』という疑問を持つようになる。五輪のためにみんなで我慢しましょう、という空気が変わるターニングポイントになる可能性があります」(本間龍氏=前出)


■「遠き慮りなければ、必ず近き憂いあり」


 だが、安倍政権はなりふり構わない。今月1日には、政府の11機関のスタッフが常駐する「国際テロ対策等情報共有センター」が新設された。共謀罪を法制化する口実が「五輪のため」だったことを思い出すが、政府は今後も同様の手口で情報統制、監視強化を進めていくに違いない。


 安倍が自民党総裁選で3選に躍起になっているのも、突き詰めれば五輪のためだ。3選すれば、事実上、首相としての任期も3年延びる。五輪招致を勝ち取った首相が、自ら開会式にも立つ。世界各国のVIPを招き、誇らしげに挨拶する。そんな姿を描いてもいるのだろう。


 その先に何があるのか。安倍本人にとってはレガシーだとしても、国民にはツケが回される。五輪後の不況を予想するエコノミストは多数いるし、現状の異常な不動産バブルに、五輪後の破滅の予兆を感じ取っている人は少なくない。


 政治評論家の森田実氏がこう言う。


「1964年の東京五輪は高度成長期の五輪でしたが、それでも終わった後の不況は深刻でした。2020年五輪は経済縮小期の五輪になります。無理して開催して、その後どうなるか。火を見るより明らかです。ところがこの国は、リーダーを筆頭に『今だけ、カネだけ、自分だけ』の風潮がますます酷くなり、長期的な展望を持たなくなった。安倍首相はとにかくヒトラーのベルリン五輪のような『民族の祭典』のマネをしたいのでしょう。しかし、論語にも『遠き慮りなければ、必ず近き憂いあり』とあります。目先のことしか考えていないと将来、大変なことになりますよ」


 メディアと経済界が五輪の人質に取られた結果、この国は無批判な全体主義社会になってしまった。その奈落の先に待っているのは地獄だということを、国民はしっかり肝に銘じるしかない。
(日刊ゲンダイ)
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