松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

“ジャーナリスト”有働由美子 「NEWS ZERO」でついに始動


「世の中いろいろ動いていて、何が正しいのか、どういう価値観でニュースを見ていたら良いのか自信がありません」


 10月1日、「news zero」(日本テレビ系)の初日で有働由美子はそう語った。有働らしい正直な言葉だと思った。


 有働とはNHKで同期だったと、以前日刊ゲンダイに書かせてもらった。その時のエピソードを共有したい。


 一緒にNHKに入って4年目の1995年、有働は「おはよう日本」のキャスターになっていた。沖縄駐在だった私は、米兵による少女暴行事件をキャップとして取材していた。その当時、東京ではこのニュースは報じられていない。私は記者、カメラマン、ディレクターを連れて、米兵が飲む飲み屋街を連日取材。飲んで暴れる彼らの姿を撮り続けた。マイクを向けて事件について問うと、「たった一件の事件で何を騒ぐんだ」と怒鳴られた。


 事件を米兵はどう受け止めているのか? そういう企画を作り、彼女の「おはよう日本」に提案した。すぐに有働から連絡が入った。


「これはショック。沖縄の人が怒るのはわかる」


 間もなく企画は放送された。これは、新聞を含めて、この事件が全国に報じられた最初のものだった。私のリポートが終わった後、スタジオに戻って有働らキャスターが画面に出る。隣に座る石沢典夫キャスターが言った。


「アメリカ兵の、『たった一件』とはあまりな発言だと思います」


 うなずく有働。そして次のニュースへ。それは有働と石沢氏とで考えたメッセージだった。


 ところが、この発言で、有働らはNHKの幹部から叱責を受ける。有働が後で電話をかけてきた。そして憮然として言った。


「『公平であるべきNHKが言うべき言葉じゃない』だって」


■「いちいち大変だけど、でも、やらないといけないと思うの」


 後日談がある。私がその後に沖縄県庁幹部の家に夜取材に行った時のことだ。取材が終わって玄関を出ると、外で夫人が待っている。珍しいと思って挨拶をすると、目に涙をためている。


「お礼が言いたくて」


「え?」


「『たった一件とはあんまりだ』ってNHKが言ってくれたでしょう。それが本当にうれしくて。NHKが沖縄の思いを全国に伝えてくれたって」


 普段は出てこない夫人が涙をためて語ってくれた言葉に、私は恐縮しつつその場を離れた。記者になって人に感謝されたのは初めてだった。私は住宅地を歩きながら泣いた。


 この後、沖縄は当時の大田知事と日本政府との協議が始まるなど激動の時を迎える。その状況をNHKの社内報に書く機会があった。私はこの夫人の言葉を紹介し、ニュースは確実に沖縄の人々の心に届いていると書いた。しばらくして有働から電話があった。


「読んだよ。あの後ね、私たちを叱責した幹部が編集会議で、『自分の認識が間違っていた』って、謝罪したんだよ」


 声が弾んでいる。もちろん、私もうれしかった。それから20年余り。「あさイチ」でも、沖縄の人々に寄り添おうとする有働の姿が見られた。頻繁に沖縄を取り上げ、人々の生活を紹介する。当然、基地の重圧といった内容になる。


「朝から日米安保に反対ですか」といった視聴者からの批判コメントも番組で紹介されていた。加えてNHKの幹部からも「なんで沖縄を取り上げるんだ」といった指摘が噴出していた。そのたびに説明の文書を作る。


「いちいち大変だけど、でも、やらないといけないと思うの」


 ショートメールとなったやりとりで、有働はそう笑った。
(日刊ゲンダイ、立岩陽一郎)
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