松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

黒い星から来た歌手達 第6回 声区2

念の為再度声区図を挙げておきます。肝心な事は女声の頭声が現在、実声と云われていますが、実声ではなく裏声(ファルセット)の声唇(声帯筋)を働かせ声帯を閉じた時に起こるビブラートのついた倍音を頭声(voce di testa)と呼んでいるわけで、聞いた印象は恰も実声の様に聞こえるかもしれませんが、実態は倍音による音声だという事なのです。
同じ様な事が男声の場合にも云えるでしょう。男声の声帯は前述の様に女声の最も長い声帯が男声の一番短い声帯である事を思えば、女声の様に裏声(ファルセット)から容易く頭声に移行する事は困難を伴うと考えられます。
つまり男声の場合、女声が地声(胸声/実声)から頭声(ビブラートのついたファルセット)へ簡単に移行出来るのに比べ、男声は(1)アペルトと呼ばれる実声のまま高音域を歌う技術、(2)高音域をファルセットで歌う技術、(3)女声の頭声にあたる声唇(声帯筋)を働かせ、まるで実声と紛うばかりの倍音によるアクートで歌う技術、と3種類の唱法が選択出来るのです。


現にアペルトのジュゼッペ・ディ・ステファーノ「道化師」衣装をつけろ。

ジュゼッペ・ディ・ステファーノ 「道化師」 衣装をつけろ 1958
ファルセットのクリストファー・ローリーOmbra mai fu (Serse)

Handel: Ombra mai fu (Serse); Christopher Lowrey, countertenor, Voices of Music 4K UHD
アクートのルチアーノ・パヴァロッティ「道化師」衣装をつけろ。

Pavarotti - Vesti La Giubba
3人の歌手が夫々異なった発声技術を駆使して素晴らしい音楽を作り上げているのです。
この様に声区に関するこれまでの分類や呼び名は非科学的且つ整合性のない論理の上に構築されてきました。女声にしろ、男声にしろ、ファルセットは飽くまでも実声ではない、Finte di voceつまり偽りの声と呼ばれているのです。ところが女声の頭声や男声のアクートの様に、声帯靭帯だけで生まれる弱々しいファルセットに声帯筋(声唇)の働きが加わると、たちどころにまるで実声と見紛うような立派なビブラートのついた響きのついた声になるので、昔の人はこれらの頭声を実声と判断したのではないでしょうか。特に男声の場合アクートによる発声法を女声のベルカントと区別して考えるべきだと主張する意見もあるほどで、男声発声法とかアクート唱法などと呼ばれるネーミングを見出す事が出来るのです。
この章の初めに申し上げた様に、ベルカントが起った時代と現在のベルカントでは大きく様変わりし、ロッシーニの頃を古代ベルカント、カストラートが終焉を迎えたアクートな高音域の時代を近代ベルカントと呼ぶのも一考かもしれません。時代は流れ、作品も新しく登場し、歌唱法もそれらとともに変化するのでしょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「美声を科学する」販売店
◉Mazzuola Editore ダイレクトセール・松尾出版直販(送料無料)
http://mazzola-editore.easy-myshop.jp
◉Amazon
https://www.amazon.co.jp/美声を科学する-松尾篤興/dp/4990812808/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1521368401&sr=8-1&keywords=美声を科学する