松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

黒田日銀も白旗 国民はアベノミクスの成果に騙されている


「3本の矢」とやらが放たれてから5年7カ月――。ようやくデタラメのアベノミクスにピリオドである。


 日銀は31日の金融政策決定会合で異次元緩和の修正を決定。長期金利が0.2%程度まで上昇することを容認し、官製相場を支えてきたETF(上場投資信託)の購入配分見直しも決めた。禁じ手のマイナス金利の適用も縮小する。異次元緩和の副作用で金融機関は収益悪化。スルガ銀行はシェアハウス不正融資に突っ走った。年金保険の運用難も看過できないレベルまできていることを考えれば、遅すぎる判断だ。会見した黒田総裁は「想定よりも時間はかかるものの、物価上昇率は徐々に高まる」と強弁したが、「2年程度で物価上昇率2%達成を目指す」とした目標は6度も先送り。4月の金融政策決定会合では「2019年度ごろ」としていた達成時期そのものを経済・物価情勢の展望(展望リポート)から削除する事態に追い込まれていた。


シグマ・キャピタルの田代秀敏チーフエコノミストは言う。


「黒田日銀は2%の物価目標を事実上、断念したということです。注目すべきは、〈2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している〉とした政策金利のフォワードガイダンスです。消費増税実施までは現状を維持するけれど、その先は政策を変更する余地がある、という含みを持たせている。つまり、いずれ異次元緩和を手じまいするということ。急激な政策変更は猛烈な円高・株安を招きかねないため、ケムに巻くかのような慎重な言い回しにならざるを得ないのです」
 黒田日銀は完全に白旗を揚げたのだ。


■2年で新旧「3本の矢」をすり替え


 12年12月末の就任会見で、安倍はこう息巻いていた。


「強い経済の再生なくして財政再建も日本の将来もありません。長引くデフレによって、額に汗して働く人たちの手取りが減っています。歴史的な円高によって、国内で歯を食いしばって頑張っている輸出企業もだんだん空洞化しています。強い経済を取り戻す、これはまさに喫緊の課題であります」


 それで打ち出されたのが、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」を掲げたアベノミクスの「3本の矢」だった。内需拡大で2%のインフレを達成すると宣言したが、実現することなく棚上げ。15年9月に「アベノミクスは第2ステージに移る」とうそぶき、「新3本の矢」として「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」を羅列。GDP600兆円、希望出生率1.8、介護離職ゼロに目標をすり替えた。16年5月のG7伊勢志摩サミットで「世界経済はリーマン・ショック前に似ている」と大ボラを吹き、「お約束と異なる新しい判断」とごまかして、消費増税を先延ばしにしたのである。アベノミクスはこうも無残なありさまなのに、なぜ安倍の自民党総裁3選が既定路線化しているのか。


労働人口減少、求人増はブラック業種ばかり


 経済アナリストの菊池英博氏の試算によると、労働者の実質賃金は年平均15万円もダウン。5年間で75万円のマイナスである。一方、個人消費(家計最終消費支出)は民主党政権下の2012年が283兆円。17年は295兆円で伸び率は年率0.8%に過ぎず、ほぼ横ばいだ。15~17年は年率0.3%に減速している。懐が寂しい。だから個人消費はさっぱり増えず、従って企業の売り上げも伸びない。物価目標は遠く及ばないわけである。
 ところが、である。通常国会閉会を受けた会見でも安倍はこう言ってのけていた。


「第2次安倍内閣の発足以来、5年間で名目GDPは56兆円増え、11.3%成長しました。正社員の有効求人倍率は、統計開始以来過去最高です。5年半前、正社員になりたい人100人に対し、たった50人分しか仕事がなかった。しかし今は2倍以上、110人分の正社員の仕事があります」


 そもそもGDP算出方法は16年12月に変更され、数値が一気にカサ上げ。94年度以降は全ての年度で上方改定されていて、これもマユツバ指標だ。雇用環境だって改善しているとは言い難い。完全失業率の低下はアベノミクスの成果ではなく、人口構造の変化が要因だ。深刻な少子化で労働人口はこの20年間で800万人以上減少。分母が求職者数、分子が求人数だとすると、分母にあたる若者はどんどん減っているのだから、有効求人倍率は相対的に上がる。小学生でも分かる算数のお話だ。


 総務省がきのう発表した6月の労働力調査によると、完全失業率(季節調整値)は前月比0.2ポイント上昇の2.4%となり、4カ月ぶりに悪化。厚労省が発表した6月の有効求人倍率は0.02ポイント上昇の1.62倍だった。背景にあるのは求職者と求人者側のニーズのギャップだ。求人倍率を押し上げているのは慢性的に人手不足の建設業や医療・介護で、ブラック業種と敬遠されがちな仕事ばかりなのである。


■2020年、日米同時リセッション懸念


 成長戦略の目玉として次々と立ち上げた鳴り物入りの「官民ファンド」も大失敗している。現在ある14ファンドのうち、12ファンドが第2次安倍政権発足後に設立・改組。国が出資や融資した金額は計8567億円で、ファンドの資金調達に対して元本返済や利払いを保証した金額が計2兆9694億円に上るという。


 会計検査院が損失の発生や非効率な運営を問題視。4月に初公表した14ファンドの検査結果によると、17年3月末時点で6ファンドが投融資に見合う回収が見込めず、再編が検討され始めている。


 埼玉学園大教授の相沢幸悦氏(経済学)は言う。


「官民ファンドは成功したためしがほとんどありません。霞が関の“第2の財布”とも揶揄され、天下り先の受け皿にもなっています。民間とジョイントし、政策を反映しようという甘い発想からしていい加減なのですから、うまくいくわけがない。アベノミクスの実態は耳当たりのいい言葉を並べ立てた人気取り政策。中身はない。そのシワ寄せが及ぶのは国民なんです」


 異次元緩和のツケだけを残した経済大失政の首相・総裁がなお続投に突き進むとは、摩訶不思議でしかない。


「米国の連邦議会予算局は今年4月、2020会計年度(19年10月~20年9月)に財政赤字が1兆ドル(約112兆円)を突破する試算を公表しました。米国が景気後退する可能性を指摘したのです。かたや日本は足元では東京五輪に向けた建設ブームが景気を刺激していますが、これは今がピーク。今年後半には下降線をたどり、来年には終焉を迎えるでしょう。1964年の東京五輪を振り返れば、翌年には証券不況に端を発した金融危機に襲われた。20年に日米同時リセッションが起きる懸念は排除できません」(田代秀敏氏=前出)


 株価暴落、企業倒産ドミノ倒し、赤いハゲタカによる買収――。東京五輪を取り巻く懸念は殺人的猛暑にとどまらないかもしれない。国民はいつ夢から覚めるのか。エンドレスの悪夢を見続けることになってもいいのか。安倍がこの国のカジ取りを続ければ、どんな未来が待ち受けているかは容易に想像がつくはずだ。
(日刊ゲンダイ)
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