松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

黒い星から来た歌手達 第9回 寝息は歌のブレス


人にとって最も自然でストレスのない呼吸はどんな時でしょう。云わずと知れたそれは寝息です。寝息は我々が最も関与出来ぬ所で呼吸器官が働いているからこそ何のストレスも無く安眠が約束されると云うものです。



3D view of diaphragm
 横隔膜は伏せたお椀の様な形をしていて、肺は2種類の肋間筋に包まれています。横隔膜が収縮する度に腹部内下方へ圧迫し、腹壁を外側に押し出す為、口から空気を取り入れる事が出来ます。この時横隔膜が下方へ収縮するのでお腹が出る現象がみられます。従って吸気、ブレスを吸う時には横隔膜は下がりお腹が出て、歌う呼気の時には横隔膜は上へもどり膨らんだお腹も凹むのです。 この吸気と呼気を最も自然な型で再現できるのが寝息で、この動作を習得する事こそが発声技術習得の第一歩となるのです。
 寝息を再現する横隔膜の動きとは、それは恰もロールカーテンを引き下ろした後、手を離すと自力で上に巻き上げられる様なもので、無理に息を吐き出すのではなくもう少し吸おうとした或一定点で呼気に転じてしまう自然さを演出しなければなりません。それは丁度ゴルフスウィングの切り返しの動作にも似て、全てがスムーズに自然な流れの中で行われてこそ不要な圧力や過度の呼気量から解放されるブレスが約束されるでしょう。
 鼻から息を吸って口から吐いてみましょう。凡そ2~3秒でそれぞれ吸気と呼気は完了し、このとき身体の状態は吸気で横隔膜が下がり、呼気で横隔膜は上がります。この呼吸をそっくりそのまま歌唱時に当てはめて歌うとすれば、これ程ストレスを伴わぬ自然なブレスが又とあるでしょうか。今迄喉や声帯に大きな負担を掛けていたブレスの圧力や過剰な量のストレスは嘘の様に霧散するでしょう。このブレスを使って歌を歌うとすればあなたは多分不安な気持に襲われるに違いありません。何故なら僅か2~3秒の吸気と2~3秒の呼気では、歌が歌える筈がないと考えてしまうからです。
 寝息と云うものは睡眠時に身体の各部へ外から取り入れた酸素を供給するための働きですので、当然声帯は開き、空気の通る道は確保されています。従って僅か2~3秒の間でも可成りの空気を取り込む事が出来るし、睡眠時には必要充分な働きなのです。しかし歌う時には呼気の場合、声帯を閉じなければ音声は生まれません。つまり寝息の呼気に於いて2~3秒で吐き出されていた息は、歌う場合には閉じた声帯を振動させながら吐き出されて行く事になります。
では実際にやってみましょう。先ず鼻から吸って口からプーと音が出るように息を2、3回寝息の呼吸を行います。このブレスをそっくりそのまま使って今度は息を吐く代わりに声をだしてみると、思った以上に長く声が続くのに驚くかも知れません。つまり歌う時には声帯が閉じられているので寝息の時の様に簡単に短時間で呼気を終わらせるわけには行かないのです。しかもブレスは大した量を吸わなかったのに思いがけぬ程長い声が続くのが妙に不釣り合いな気にさえなってしまいます。そこにはあなたが今迄出した事もない、ノンビブラートの澄んだ通る声が響いているのです。
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