松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

黒い星から来た歌手達 第11回 寝息の科学


寝息が身体に優しく喉周りにストレスをかけない呼吸法だと云うことは分かりました。澄んだビブラートのない音声、この声をイタリアではmezza di voce(半分の声)と呼び、発声の基本形となっていますが、messa di voce(声の塊)と云うのもあり、一定の音を長く歌いながらゆっくりクレシェンドして次にデクレシェンドする、18世紀のベルカント発声訓練法として(voce di finte)用いられました。
voce di finteとは偽りの声、つまり実声でない声を指しますが、17世紀頃のベルカント唱法は女声の高音域は頭声としての存在を確立していました。男声の高音域、つまりテノールの高音域は全てファルセットで歌われるカストラート(睾丸摘出による変声を防ぐ処置をうけたボーイソプラノ)が主流でしたので、voce di finteと呼ばれるに至ったのでしょう。
しかし18世紀以降、ヴェリズモ運動が盛んになるとオペラの世界もその影響を受けるようになり、作曲家達も現実主義的な作品を作曲するようになり、カストラートのテノール歌手は姿を消し、それと共にアクート唱法を操る男性歌手がヴェリズモオペラの作品を支配するようになりました。
現在では女声の頭声や男声のアクート高音域は実声と呼ばれていますが、これは17世紀頃のベルカント唱法に比べて、まるで実声のような声の響きと感じ取られただけの話で、科学的な根拠も整合性も無い話でありまして、敢えて誤解を恐れず云えば、女声の頭声や男声のアクート高音域はすべてvoce di finteファルセットと同じ実声ではない、一種の倍音による頭声の変化したものだ、という見解を示さなければ理論的整合性に欠ける問題にまで及んでいる、と考えざるを得ないのです。
この原稿の声区の所でお話した図面を思い出して下さい。

女声の頭声は飽くまでもファルセット(裏声)の声帯筋(声唇)などを使ってchiuso(閉じた)の状態で作られた倍音によるものであり、男声のアクートも又、ファルセット(裏声)の声帯筋(声唇)などを使ってchiuso(閉じた)の状態で作られた倍音によるものである、つまり新しい頭声の姿だという認識をもたざるを得ないではありませんか。この様な見解を持てば男声のアクート唱法の会得も現在の様な困難を伴うものではなくなり、女声の頭声も単に綺羅びやかな響きだけに留まらぬ、真の意味での女声の高音域の声の姿を見出す事ができるに違いありません。
この様に人の声作りと云うものは自分の身体を楽器として改造してゆく作業を常に強いられるものだという覚悟が必要なのです。
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