松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

黒い星から来た歌手達 第12回 音楽教師と国家試験


その昔東京藝術大学の前身、東京音楽学校には師範科と云う学科がありました。1887年音楽教員及び音楽士を養成する目的で開校されたのです。また私が勤めていた洗足学園音楽大学にも音楽教員養成を目的とする音楽教育科があり現在も学生募集を行っています。
欧米に於いても音楽を志す者にとって、教育機関は存在しますが、何故か他のジャンルの様にライセンスの制度が無いのは世界共通なのでしょう。
例えば医師、弁護士には国家試験が存在し、プロスポーツの世界でも資格試験に通らなければライセンスを手にする事はできません。ところが芸術の世界、音楽、絵画、舞踊などにはライセンスなるものが存在しない。つまり芸術たるもの免状などに頼らずとも、人の心を動かすものであれば、ありのままで良し、となったのでしょう。また考えようによっては、音楽大学の卒業証書を免状としたのかもしれません。
現在日本にある音楽大学の数は41校だそうです(Yahoo知恵コレによる)。文部科学省の学校基本調査によると2015年の音楽大学の卒業生は16,000だそうですから、それでなくてもマーケットの小さい日本の音楽界ではこの大部分が演奏家として成り立たなくなるわけで、勢いそれらの人々が何らかの形で街の音楽教師を開業せざるを余儀なくされるのです。
私が芸大に入学した1955年でも既に演奏家の道は程遠いもので、声楽科60名中果たして何人が演奏活動に携わっていた事でしょう。例え演奏活動に携われたとしても演奏活動だけを生業とするなぞ夢の又夢で、どこかの教育機関に奉職しながら、合間に演奏活動に参加する、といったパターンが大凡だったのです。デカンショ節の文句ではないが、「教師、生徒の成れの果て」と云うわけです。
欧米などでは有名な演奏家が直々後継者を指導する、つまり弟子をとることもありますが、発声技術の指導、メンテナンスなどは専門のマエストロが居て、直属の調整者として従事していますし、オペラなどの音楽作りは、劇場のコルペティトーレが責任者でもあります。日本の声楽界の様に、現役の歌手が弟子をとる例は余り見かけません、寧ろ自分の歌手生命を大事にするのか、発声のマエストロを抱えているのが現実でしょう。有名な演奏家が直々後継者を指導するのは公開レッスンや引退後の仕事として多く存在する様です。
海外で声楽を教える音楽関係の学校は凡そ400程に上りますが、演奏家と声楽教師との棲み分けは自ずと出来ていて、プレーヤーの地位が高いほど、有名なトレーナーとの関係が結ばれている様です。
日本に眼を転じると、有名な現役の歌手が弟子をとるかと思えば、今年音大を卒業した新人が音楽教室を開く事も決して稀ではなく、「☐☐音楽大学大学院卒業、○○式発声法、△△音楽教室」などとネットなどで歌われれば、中身は分からずともそれらしい雰囲気は伝わろうというものです。
思うに歌手として大成すべく志を立てた者は、それなりに精進し、夢を叶えるのでしょうが、現実社会の生存競争の中で歌手以外の職業、指導者としての立場に立たされるとは夢にも思わなかった現実なのかもも知れません。生計を立てるにはこれらの妥協に甘んじなければならないのが現実と云うものなのでしょう。歌う技術やノウハウは身に付けたものの、それを人に伝授する知恵や方法については全く手付かずのままの現在が横たわっているのです。
自分の歌に対する知識や技術は身に付けても、他人にそれらを伝授する知識や方法については全くの素人が歌の指導者として君臨している例が世の中には余りにも多すぎはしないでしょうか。
これらの問題を解消するにはボイストレーナーに国家試験なみの免許制度を確立することです。多分日本の医師なみの信頼性が得られる妙案だとはおもいませんか?
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