松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

黒い星から来た歌手達 第20回 悪声いろいろ 02


暗い声:
バスやアルトに多く見られる声に暗い声があります。暗いとはこもった声を意味し、発音不明瞭な声でもあるということです。私も芸大の学生時代、立派な太い低音に憧れて随分暗い声で歌っていましたが、1956年「NHK イタリア歌劇団」来日をきっかけにこの癖は影を潜めてしまいました。
なぜ暗い声になるかと云えば、世界の一流演奏家の声を音源で聴くと、いかにも深い響きの立派な声で、その魅力に圧倒されるものです。そこで口の奥で発音するとあたかも深い響きの声のような錯覚に陥ってしまうのが実態なのでしょう。これはなにも低声歌手に限ったことではなく、声の響きが薄い人などが口蓋垂を引上げ、後頭部を意識して声の響きを豊にしようとするとき、発音までが奥に籠る弊害が起るので注意が必要です。
トレモロ、揺れ声:
トレモロは何と云っても喉に余計な緊張が加わることによって生じる現象ですから、矯正のために先ずはブレスの流れをチェックしてみましょう。
先ずは寝息を使ったノンヴィブラートの声を心がける事です。更に大きな響きのある声が必要な場合、促音(小さなッの音声を発音するつもりで)例えば「アッ、アー」と声を出すと声門が閉鎖した所にブレスが通過しますので、大きな強い響きの声が出ます。
寝息のように穏やかなブレスを使っているので喉元に余計なストレスは起らず、トレモロのない美しいヴィブラートのついた響きのいい大きな声が出るに違いありません。揺れ声の矯正法は簡単で、息の圧力や量に頼らぬ無理な声の酷使に注意する事でしょう。
胴間声:
胴間声は胴声とも云い、胴間声を辞書で引いてみると「調子はずれの太く濁った声」とあります。胴声とも云うくらいですから、上から下まで寸法の変らぬずんどう鍋の声、つまり、一本調子でぶっきらぼうな太い声、そのうえ濁ったと云うからにはダミ声ということになりましょう。このように自然なヴィブラートが生まれる条件がそろわず、ノンヴィブラートの太く一本調子なずんどう型の声のことを胴間声と呼んでいます。歌手の中でも低声の歌手、バスやアルトにこの種の声の人を見かけるのはなぜでしょう。
声帯を閉じて使わなければ低い音を歌うことはできません。また、低い声はVoce di pettoつまり胸声(地声)の声区でなければ容易に声は響かないのです。そこで胸声のまま声を出そうとすると、声門閉鎖はかなり行われているのに口腔の容積が少ない場合、どうしても呼気の量を必要以上に増やして声を響かせようとします、そのため声門閉鎖が不規則な状態となり、いわゆる濁声まじりの太い声が出るのでしょう。軟口蓋がある程度ひろげられていても口蓋垂の引き上げ方が足りないと、声を響かせようとして呼気の量を増やしてしまい、やはり声門閉鎖は安定度を欠き、自然なヴィブラートが生まれるには至らなくなってしまい結果的に胴間声となってしまいます。
このようにある程度、歌の技術的な問題を熟知している人でさえも、胴間声の落とし穴は存在するわけですが、せっかく声門閉鎖を行い、軟口蓋をひろげてみても息の流れが適切でなかったり、口蓋垂の引き上げ方が十分でなかったりすることによって、声門閉鎖のバランスを崩し、自然な美しいヴィブラートのかからぬ胴間声の被害を蒙ることになりかねないのです。
さて胴間声の矯正法ですが、正しい声門閉鎖、軟口蓋の拡張、口蓋垂の引き上げ、呼気の適正量とスピード、発音の場所、これらの条件がそろえば美しいヴィブラートのかかった素晴らしい響きの声は生まれるはずです。
これらのバランスが崩れることによって胴間声は顔をのぞかせることになってしまいます。(完)
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