松尾篤興のブログ「閑話放題」

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フォルクスワーゲン『ID.3 1st』発表〜電気自動車が大衆車になる時代の先駆けか


ID.3 1stは、2021年からの量産に先駆けて3万台が先行販売される限定モデルです。搭載される電池容量は58kWhで、1充電あたりの航続距離は420km(WLTPモード)、価格は4万ユーロ未満(1ユーロ118.8円で約475万円)になる予定です。
もっとも先行販売される3万台は、すでに予約で埋まっているようです。
でも本番はまだこれからです。本格的な量産に伴って追加される予定のベースモデルの価格は、3万ユーロ未満になることがすでに発表されています。
ベースモデルに低排ガス車の補助金(ドイツでは4000ユーロ)を適用すると2万6000ユーロ(約308万円)です。これなら一般的な内燃機関の小型車と比較できる価格帯と言えるでしょう。日本なら補助金がもう少し多くなるかもしれません。
フォルクスワーゲン グループ ジャパンによれば、日本導入は2022年以降の予定とのことです。今から待ち遠しいのですが、ここではまず、スペックを見ていきたいと思います。
ID.3 1st はフォルクスワーゲンが2018年に発表した電気自動車の共通プラットフォーム『MEB』を使った、最初の市販車になります。コンパクトカーでリアドライブというのは、個人的には車にワクワクする大きな要因です。車内スペースを確保しつつリアドライブにできるのは、EVの大きな特長ですね。
先行販売されるID.3 1stの電池容量は58kWh。1充電あたりの航続距離は420km(WLTPモード)です。フォルクスワーゲンは順次、45kWhと77kWhのバージョンを追加する予定です。1回の充電あたりの航続距離はそれぞれ最大330kmと550km(いずれもWLTPモード)と発表されています。
フォルクスワーゲンは今回、それぞれの航続距離について実用上の予想をリリースに記載しています。並べると、こんな感じです。
ID.3 参考データ
航続距離
電池容量 航続距離(WLTPモード) 実用上の予測航続距離
(WLTPモード) 推測EPA航続距離
45kWh
330km
230〜330km
294km
58kWh
420km
300〜420km
374km
77kWh 550km 390〜550km 490km
ID.3 車体寸法
全長×全幅×全高
4261×1809×1552(mm)
ホイールベース
2765mm
最小車両重量
1719kg(DIN)
回転半径
約5.1m
トランク容量 385ℓ
ID.3 1st 動力性能
最高出力
150kW
最大トルク
310Nm
最高速度 160km/h
※EPA値はアメリカでの実車検証を元に「WLTP / 1.121 = EPA」という計算式で推定しています。
予測航続距離は、WLTPモードに基づいて、テストローラーで試験サイクルを模擬して算出しています。リリースによれば、ドライバーの80%はこの範囲に収まるそうです。また、予測航続距離の下限値は高速道路での走行や冬季の運転を想定したものなので、都市部ではもっと距離が伸びると見ています。EVにとって、日本の走行条件はドイツほど厳しくないので、さらに余裕があるかもしれません。
ところでリーフe+の航続距離は、62kWhの電池容量で推定385km(WLTPモード)なので、ID.3 1stは現在のスペックを見る限りリーフの電費を上回っていることになります。これはいつか、実車で確認してみたいところです。
ID.3 1stの急速充電対応は100kWで、30分で290km分の充電ができます(WLTPモード換算)。単純に航続距離を考えると、約70%まで入ると考えられます。とはいえこのへんは電池残量や電池の容量に依存するので、実用上がどうなるかはケースバイケースです。
受け入れ可能な充電器の出力は、搭載電池容量によって違います。45kWhモデルでは、急速充電器は最大50kWで、オプションで100kWを選択可能になる予定です。77kWhモデルは、最大125kWの急速充電器に対応しています。
一方、自宅で充電する場合の対応出力は、45kWhモデルは7.2kW、58kWhモデルと77kWhモデルは11kWになります。フォルクスワーゲンはID.3の発売と同時に、自宅用の充電器『ID. Charger』を発売する予定です。家庭用充電器はオプションで、外部からのリモートアクセス機能などを追加できるほか、自宅の電気メーターと統合管理することで電気料金の安い夜間に充電する設定にすることも可能です。
またID.3 1stの電池には、8年間、または16万kmの保証が付けられます。前述の発表(フォルクスワーゲンの電気自動車「ID」プレゼンテーション全編翻訳をお届けします!)では、残容量70%まで保証するとも言及しています。保証期間中のトラブルにどのように対処するかはリリースには記載されていませんが、期間も走行距離も、もし日本で同様の保証が適用されるのであれば十分な条件と言えそうです。
ところで、これは欧州に限った話になりますが、ID.3 1stのユーザーは、フォルクスワーゲン独自の充電システム『WeCharge』を通して、車の登録から1年間、または最大2000kWh分の充電料金が無料になります。
フォルクスワーゲンも出資するIonityは、2020年末までに、高速道路沿いに平均6基の充電器を設置する400の充電施設を120kmごとに整備する計画を発表しています。この充電施設の電気は、100%再生可能エネルギーで賄われる予定です。このほかフォルクスワーゲンは、2025年までに3500の充電施設を独自に整備する予定です。ID.3 1stのユーザーは、こうした充電施設を最初の1年間は無料で使えるのです。
ここまでざっと見てきたID.3シリーズのコストパフォーマンスは、大衆車メーカーの本領発揮といったところでしょうか。量産が始まれば、電気自動車だけでなく、ガソリン車も交えた大衆車市場に大きな衝撃を与えるのではないかと思います。
そのことは、フォルクスワーゲンが今回、新しいブランドロゴを付ける最初の車にID.3 1stを選択したことからも感じることができます。いよいよ大衆EVが、車本来の競争力を持つようになり、内燃機関の車と真っ向勝負をしていく時代の幕が上がるのかもしれません。
※<WLTPモードとEPAモードについて>
当ブログでは基本的に、航続距離については米EPAモードを使用しています。現在、世界的にWLTPモードやWLTCモードの使用を義務化する流れになっていますが、当ブログでは、より数値が厳しく出る(つまり試験条件が厳しい)傾向のあるEPAモードの方が実態に近いのではないかと考え、できるだけEPAモードで表記をしています。なおWLTPからEPAへの換算については、アメリカでの実車検証を参考に「WLTP / 1.121 = EPA」とし、推測値として記載していきます。
(木野龍逸)
(EVsmartブログ)
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