Matsuo Atsuokiのブログ

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法、歌唱法。

国分博文著「アクート歌唱法の原理と実践」を読み解く 004


バス・バリトンのアクート


http://www.voglio.org/acuto.htm


【 バリトン・バスのアクートの実践】


 バス・バリトンは他の声種に比べて換声点(パッサージョ域)が顕著なため、アクートに関してはある意味、テナーよりも難しい部分もあるかもしれません。それ故このパッサッジョ域に過度に囚われ過ぎる傾向にあります。
何とかこのパッサッジョを乗り越えようと言う意識が強すぎるのです。強いて乗り越えようとすればするほど、男性歌手の「性(さが)」=パッサッジョは立ちはだかります。
パッサッジョは声で 操作しようとすればするほど立ちはだかります。結果として苦し紛れにパッサッジョ域を開いてアペルトで誤魔化してしまう。
誤魔化しとは言わないまでも喉を「開く」と言う指導が定着してしまっているようです。しかしこれではドラマ・感動の薄い開き声になってしまいます。
一言で言い表すのは難しいのですが、パッサッジョは開いてはいけません。あるいはパッサッジョ域を力尽くで抑え込んだ強烈な喉声、この場合息の流れが完全に止まってしまい、声色だけになってしまいます。
バス・バリトンのパッサッジョ~アクートにかけては、アッポジオに寄り掛りながら越えていくことが大切です。アッポジオはブレスと同じタイミングで生まれてきます。上記の動画のオクターブの跳躍練習(ド~♭シ)で具体的に実践しています。
このアッポジオに寄り掛っていくことでパッサッジョ域を力まずに通過できます。更にパッサッジョ域に達すると声の響きが変わりアクートになっていきます。
バリトンの私は上の「ミ」の音からアクートになります。明響きが増幅され、音色が変わっていくのをご理解いただけると思います。
バス・バリトンのアクートはパッサッジョ域にこだわりすぎることなく、アッポジオ=「支え・寄りかかり」を実感し、具体化していくことが大切です。ただ、このアッポジオは観念的な腹式呼吸とは別物です。意識でお腹を膨らませたり、下腹部に力を入れたり等の操作ではありません。ブレスのタイミングでアッポジオになってしまう、ここが大切です!


【 テノールのアクートの実践】

 イタリア人マエストロのレッスンでは「開けて、広げて」が飛び交いますが、アクートを声色の操作として捉えがちな私達日本人はそれを鵜呑みにして、喉を広げて、息を通して、結局は開いた密度のない喉声で歌ってしまうか、パッサージョ域を力づくで押し殺し、結果は声真似だけのアクート擬き、残念ながら、どちらも結局は「喉から声を外せない」喉声でしかありません!
ここを間違えるとアクートは絶対に生まれません、ジラーレ+キューゾがあって、その後に「開けて、広げて!」の必然があります!国内の動画ではファルセットを「アクートの練習」と称し、アペルトで無感動な声をドイツ唱法云々、ベルカント唱法と称し、パッサッジョ域で力づくで締め付けた喉声をアクートと称し、残念ながらその多くはベルカントでもアクートでもありません!
(アクート歌唱法の原理と実践より)


文章では観念的な表現となってしまうため、具体性に欠けるところも感じられなくもありませんが、どだい姿かたちの見えぬ声の話なのですから、その分文字だけでは表現し辛い部分も出てくるのは致し方のない事かもしれません。
国分氏がアクートに関する概論の様な文章を綴っているので、掲載しておきましょう。


=何故、ベルカント唱法を学んでもアクートが習得できないのか?=


 それはベルカント唱法が本来カストラート(去勢歌手)の歌唱法だからです。胸声から頭声へ移行しても違和感の無いカストラートや女性の為のコロラトゥーラの歌唱法なのです。男性が同じことをやるとカウンターテナーにしかなりません。なぜか?男性の場合は胸声域の先はファルセット(イタリア語でウソの意)でしかないのです。そこを誤解して男性歌手にもベルカント唱法を強いるから・・・、胸声のままパッサッジ域に入り・・・喉を広げて! 力を抜いて!・・・となってしまうのです。しかし、これは人の生理を考えれば無理だと言う事が分かるはずですが、胸声でパッサッジョに突入すると声帯は過緊張に陥る、これが普通なのです。そこで喉を広げて! 力を抜いてと言うのは、以前にもお話ししましたが、自転車で左に曲がるのに左折するときは右に重心をかけろと言うのと同じです。
ベルカント唱法の概念だけに洗脳されるとこの単純な生理現象すら見失い、胸声によるアペルト唱法を助長してしまうのです。
女性にも男性にも同じように喉を広げて! 力を抜いて!となってしまうのです。(女性の生徒には上手く行くが、男性の生徒には上手く伝わらないとの教師の声を耳にしますが、論外です!)
これでは男性にはたまったものではありません。アクート唱法とは、パッサッジョ域からアクート域において、ジラーレした声帯を閉じ、呼気圧で鳴らす歌唱技術です。この「閉じる」と言う概念は、女性におけるベルカント唱法には無い概念なのです。
ベルカント唱法より難しいはずです! 胸声から喉を広げて力を抜いてファルセットに移行するだけなら然程難しくはないはずでが、カストラートが歌っていた音域をアクート唱法を駆使して歌うのですから。 
カストラートにして歌う事が可能だった高音域を、去勢していない男性歌手が歌う事(胸声の延長で歌う事)は不可能なのです! 
これが摂理です況や、「力尽くの喉声アッポジオで歌い切れるものではない」と言う事は「自明の理」と言うべきものです。アクート唱法が胸声の延長では無い事がご理解いただけると思います。
私が思うに、ベルカント唱法に対してアクート唱法は3倍のハンディキャプを負っています。男性は心して学ぶべきです!しかし、残念ながら女性にも男性にも「広げて! 力を抜いて!」まだこれが現在の日本の声楽教育のスタンダードの様です。


=ベルカント唱法の変貌=


男性歌手における古典ベルカント唱法は19世紀中頃に転換期を迎えます。美しく繊細に歌われていたファルセットは衰退し、力強くドラマチックな表現のアクートの歌唱法に変貌しました。つまりイタリアオペラに於ける男性歌手、カルーゾ、デル・モナコ、コレッルリ、バスティアニーニ、カップッチルリ等の歌唱法は古典ベルカント唱法ではなく、「胸声」と「アクート唱法」による言うなれば「ハイブリッド歌唱法」に他なりません。
従って男性の場合、学ぶべきは古典ベルカント唱法では無く「アクート唱法」と言えます。イタリアへ留学してもアクート唱法を修得するのが困難な原因は、国立音楽院でのレッスンの基軸が古典ベルカント唱法の修得にある事の様に思われます。
さらに国内ではこの対極とも言える古典ベルカント唱法とアクート唱法を一括りにし、独り歩きした「ベルカント唱法の概念」が日本固有の「ガラパゴス・ベルカント」の混沌を生み出している様に感じます。
ファルセットやアペルトになってしまうテナー、喉で押さえてアッポジオと称し、パッサッジョ域で息が全くパッサッジョ(通過)していない力ずくのバリトン・バス、ネット上のサイトや動画の一聴瞭然の誤りは大変残念です。
アクートの誤りは全て「持ち声による操作」によるものです。サイトの初項でも述べましたがアクートは「声では無い」と言う認識から学ぶことが大切ですとは言っても、人はアクートを学ぶ際に安易と言うより習慣的に「持ち声」で歌ってしまうのです。
アクートの原理は単純です!ジラーレしてキューゾした声帯の間を鋭く(アクート)息をパッサッジョ(通過)させる「声帯を鳴らす」技術です。「声で歌う」のではなく、「鋭く息を通過させ声帯を鳴らす」のです。ジラーレした裏声がなぜ力強いアクートに変わるのか!?先ず、ここから始めるのが一番の早道です。(アクート歌唱法の原理と実践より)

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