松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

「平和が困る」戦争屋たち 米朝決裂を期待する不穏な動き

 


 北朝鮮が16日未明、韓国との南北閣僚級会談をドタキャンし、6月12日に予定されている米朝首脳会談までも中止する可能性を示唆。北朝鮮情勢をめぐるこのところの“融和ムード”に冷や水を浴びせた。表向きの理由は11日から始まった米韓合同訓練が「板門店宣言」に反しているというもの。米国の一方的な非核化要求に難色を示したとみられるのだが、これを受けた安倍政権の反応には違和感を持たざるを得ない。


 政府は、菅官房長官こそ「重大な関心をもって情報収集、分析に努めている」と慎重な発言だったが、西村官房副長官は「米韓訓練は抑止力の柱だ。着実な実施は地域の平和と安全の確保にとって重要だ」と合同訓練の続行を求め、最大圧力を維持する構えを見せた。


 安倍首相はといえば、来日したフィジーのバイニマラマ首相との会談で、洋上で物資を積み替える「瀬取り」など、北の制裁逃れ対応が急務だとの認識で一致。相変わらず、圧力路線の同調を各国に求め続けている。そこへ、「あの見てくれの悪い(北朝鮮の)飛行機が(米朝首脳会談の場所の)シンガポールへ行く途中で落ちたら」なんておバカ副総理の軽率な発言まで加わり、まるで日本は米朝が決裂することを期待しているかのような不穏な空気なのだ。


 こうした政府の反応を受けてなのだろう。メディアも、「残り1カ月弱で米朝が折り合えるかどうかは依然不透明」「会談への悲観的な見方も広がりそうだ」と解説し、警戒感を強めている。どうにも6カ国協議の各国政府とのスタンスの違いが際立つのである。


 各国はもっと冷静だ。韓国大統領府高官は「現在の状況は、良い結果を得るための陣痛だとみている」とし、中国も王毅外相が「現在の和らいだ情勢は非常に得難い。北朝鮮の自発的な措置は十分に信頼できる」と発言した。韓国は北の今後が自国の安全に直結するし、中国は北の後ろ盾。それぞれの事情はあるとはいえ、米国だって、サンダース大統領報道官が「開催されることに期待を抱いているし、引き続きその方向に進む」と表明している。あの攻撃的なトランプ大統領も、「私たちは(首脳会談取りやめの警告について)通知を受けていない。何も見ていないし、聞いていない」といつになく抑制的だった。


 つまり、米中韓は北の警告はあくまで牽制であり、本気で米朝会談実施を白紙に戻す意図はないとみているのだ。


「結末は予断を許しませんが、それでも韓国の文在寅大統領の政治的意思が固ければ、南北融和の流れは変わらないでしょう。トランプ大統領にしても、ここまで米朝会談の成功を演出してきて、延期になれば、当面再開はありません。そうなると『トランプは外交ができない』と見なされる。中間選挙を前にしてそれは避けたいはずです。今回、北朝鮮が非難する対象は、ボルトン大統領補佐官です。いざとなったらトランプはボルトンを更迭する可能性だってある。そんな中で、安倍首相は『圧力』と言い続けるしかない。独自外交がないゆえの惨めさを感じます」(元外交官・天木直人氏)


■自民党を中心とする支配層は朝鮮戦争終結を望まない


 圧力一辺倒の異様さ……。そんなに日本は平和が嫌なのか、困るのか。


 もちろんその筆頭は安倍だ。ホンネでは朝鮮半島の和平を望んでいないのではないか。


 米朝会談が白紙になり北朝鮮の非核化が実現しなければ、安倍が“最優先課題”と位置付ける拉致問題も暗礁に乗り上げたままだ。ここぞとばかりに金正恩委員長を非難するのだろうが、拉致問題を本気で解決する気などない安倍にとっては、むしろ都合がいい。


 昨年来、「日米は100%ともにある」と圧力路線で世界をリードしているつもりだったのに、年明けに北が軟化し、平昌五輪を利用して韓国が融和ムードを高めると、米国も一転、対話路線に舵を切った。置いてきぼりをくらった安倍は、「蚊帳の外」批判にイラ立ちまくっている。


 北が狂った暴走国家に逆戻りすれば、また「北風」として支持率アップに利用できるし、昨年10月のように「国難」だとして解散総選挙も打てる。4年連続で過去最大を更新する軍事費の膨張も続けられる。それは貿易赤字の解消を日本に迫る“兵器商人”のトランプを喜ばせる結果ももたらし、自身の政権居座りを長引かせる効果もある。だから防衛省は、北の緊張が緩んでも地上配備型迎撃システムの「イージス・アショア」を解約する気はゼロだ。


 安倍政権は「日本を取り巻く安全保障環境が悪化している」と国民を脅して、安保法や共謀罪を成立させてきた。そうして立憲主義を踏みにじってまで米国が望む集団的自衛権の行使を可能にしたのは、自衛隊の米軍一体化を進めるためだった。それは、安倍が悲願とする9条改憲にもつながっている。


 戦前の天皇制を表す「国体」について、戦後は「米国」がそれになり代わったと喝破した新著「国体論 菊と星条旗」(集英社新書)が話題の、京都精華大専任講師の白井聡氏(政治学)はこう言う。


「自民党を中心とする日本の支配層にとって、朝鮮戦争が終結したら困るのです。日米安保条約を根拠として存在している在日米軍ですが、朝鮮戦争が終わっていないために国連軍として駐留しているという存在理由もある。朝鮮戦争が終われば、国連軍は解散され、在日米軍の駐留根拠のひとつが失われます。永続的に自発的な対米従属を維持したい人たちにとって、それでは不都合なのです」


「核なき世界」を掲げたオバマ政権時、日本政府が米側に「核兵器維持」を懇願していたことが明らかになった。いまだ“冷戦構造”を追い求めているのが日本という国なのである。


■「敵」がいてこそ「抑止力」の必要性が高まる


 大メディアも問題だ。積極的従属の日米軍事同盟に盲目的な政府と同じ思考で、歪んだ常識から抜け出せない。


「リベラルの朝日新聞でさえも、日米同盟堅持を最優先に掲げています。沖縄の基地問題や地位協定の見直しなどには言及しても、本質的な日米同盟の見直しには絶対触れません。それを言えば、共産党と同じだと見なされかねないので、メディアにとっても一種のタブーとなっているように思います。日米同盟最優先という考え方の裏には中国脅威論がある。本来なら、保守の中から中国との関係を再構築し、東アジアの平和を真剣に考える動きが出てきてもいいのに、残念です」(天木直人氏=前出)


 外務省も防衛省も、圧力でハードルを上げれば北は追い詰められると思い込んでいる。北が中国に泣きついたのも、追い詰められたからだと自画自賛の狂気だ。


 北朝鮮でも中国でも構わない。国民の生命と財産を脅かす“敵”がいることで「抑止力」を叫び、自らの存在意義を示せる。それが今の政府であり、その頂点にいるのが軍事国家を狙う戦争屋首相だ。日米一体で脅威に対峙する、という構図を利用しているのが安倍であり、自民党なのである。


「1990年代以降、在日米軍の性格は大きく変化しています。今、在日米軍が守っているのは、自民党を中心とする対米従属権力。日本の社会全体で中核をなす支配層が、自らの権力を維持し続けるために、在日米軍を必要としているのです。もっともそれは結果的に自発的な対米隷従になっているわけで、諸外国はそういう日本を恥ずかしい国と蔑んでいますよ」(白井聡氏=前出)


 有権者と野党は、こうした現実に鈍感ではダメだ。激動する世界情勢の中で、この国は完全に取り残されてしまう。
(日刊ゲンダイ)
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