松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

黒い星から来た歌手達 第13回 舌根はどこにあるの?


芸大入学当時の私がまさにそうでしたが、歌を習い始めた人が一度は通る道が舌根の堅さでしょう。と云うのは外国の一流演奏家の録音を聴くと、何とも深みのある素晴らしい声の響きに圧倒されるからで、我が身の薄っぺらな声も何とかこの様な素晴らしい音声に近づけぬものかと考えるのは尤もな事です。
すべての創造は模倣から出発する、とは画家池田満寿夫の言葉ですが、真似るにしてもどこを真似るかによって、それは進歩とも悪癖ともなりうるのです。
元々欧米の人達は日本人に比べ声帯の位置が奥の方にあり、外からは容易に見難いのですが、歌唱技術も声帯全体を閉じて、これを引き伸ばす事によって高音域に対処しようと云う方法ですので、所謂高音域になると声帯全体を確り閉じない、声帯の一部だけを合わせた細く、薄い声になってしまう日本人の歌唱技術とは根本的に異なるメソッドの違いに気付かなければなりません。
基本的な技術の違いを問題視せず、安直に深い声の音色ばかりに拘ると、いつの間にか舌根を堅くし暗い音色の声の出し方、俗に言う喉声の中の団子声(クネーデル=肉団子)と成り果ててしまうのです。

   

では舌根とは一体どこにあるのでしょう?舌根と云うからには舌の根元、つまり喉の奥深くにあると考えるのが人情と云うものですが、舌の根元はオトガイ、下顎の所から口元まで舌は拡がっていて、舌根と呼ばれる場所は舌の根元ではなく舌の後方奥の別の場所であることを知っているのは歯医者ぐらいで、声楽家の大部分の人達はこの認識がありません。
何故この様に別の場所が舌根と呼ばれるようになったかは定かではありませんが、大部分の人が舌の付け根を舌根と思っているだろうし、舌の付け根がオトガイ、下顎にあるなど考えた事もないでしょう。ましてや何故舌根と呼ばれる場所がまったく別の場所にあるなど知る由もないのでしょう。
舌根が正常な位置にあれば喉元は何の変化もなく、喉廻りも特別なストレスを感じない素直な声が出ますが、一旦精神的な緊張や生理的な不具合に見舞われますと舌根はまるで肉団子のように固まり、喉元を膨らませ、発音不明瞭な暗い喉声となってしまいます。
団子声の原因は色々考えられますが、一つは本人の勘違いによるもの、つまり歌唱技術の違いからくる声の響きを、単に音色だけを真似て深い響きの声、実際には単に暗く発音不明瞭の声を作り上げようとする癖なのです。
思い込みや勘違いが無くても、歌唱技術の習得無しに闇雲に大きな声を出そうとして、喉元に大きなプレッシャーをかけてしまう場合もありますし、日頃素直な声で歌えても、いざ舞台に立つと良い所を見せようとして日頃の成果が出せないケースもあるでしょう。
これら団子声の原因を見るにつけ人間と云うものは何と煩悩多き生き物であるかをまざまざと思い知らされてしまうのです。
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