松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

猛暑だけじゃないクレージーの数々 誰のための五輪なのか

 


 日本列島を襲うこの厳しい暑さには、誰もが閉口している。熱中症とみられる症状で救急搬送、死亡するケースが全国で相次ぐ。東京五輪開催まで2年を切り、お祭り騒ぎが繰り広げられているが、日常生活を営むことさえ難儀する殺人的猛暑の中、世界中からトップアスリートを呼び集めたスポーツの祭典なんて本当にやれるのか。海外メディアは「開催時期への疑問が再燃した」(米ウォールストリート・ジャーナル電子版23日付)、「7月と8月に開催する能力があるのか、懸念されている」(米ワシントン・ポスト電子版24日付)などと次々に報じ、開催を不安視している。それはもっともだ。


 そうした中、突如浮上したのが夏場だけ時計の針を1~2時間進めるサマータイムである。大会組織委員会の森喜朗会長は27日、安倍首相と会談。「抜本的な暑さ対策を考えないといけない。首相の決断でやってほしい」と導入を要請すると、安倍は「それがひとつの解決策かもしれない」と応じたという。サマータイムは2005年と08年に議員立法で導入が検討されたが、健康リスクや長時間労働の助長につながるとの批判が上がり、実現しなかった経緯がある。


■打つ手なしで浮上したサマータイム


 高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。


「実施している欧米でも見直しの動きがあるサマータイムを導入したところで、抜本的な暑さ対策につながるとは思えません。真夏の東京に競技に適した涼しい時間帯がありますか? 裏を返せば打つ手なしと認めたようなものです。海外メディアが指摘している通り、IOCに懇願してでも10月に延期すべきです。IOCに影響力のある米3大ネットワークの意向で夏開催が固定化されたともいわれますが、選手や観客がしわ寄せを受けてもいいのか。酷暑を押しての強行開催で犠牲者が出てしまったら、取り返しがつきません。国際社会から極めて人権意識の低い国だと烙印を押されることになるでしょう」


 クレージーな猛暑五輪は一体誰のためなのか?何のために開催されるのか? 男女マラソンを当初予定から30分早めて午前7時開始にするなど、一部競技時間の早朝化。700億円を投じるマラソン競技コースの特別舗装、路上競技の観客向けにクールスポット整備、入場待ち行列にテントや大型冷風機の設置、気温と湿度をもとにした「暑さ指数」の情報提供――組織委や東京都がアピールするこうした暑さ対策は、付け焼き刃でしかないということだ。小池都知事が「江戸時代の知恵、江戸のおもてなしだ」と誇る打ち水なんか、失笑ものである。


■憲法違反の大学生ボランティア強制


 そもそも、東京五輪は招致段階から嘘っぱちだらけだった。13年1月に五輪招致委員会と東京都がIOCに提出した「立候補ファイル」には「2020年東京大会の理想的な日程」という項目があり、こう記述されていた。


〈この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である〉


 当時も東京の猛暑は風物詩だったにもかかわらず、である。その上、安倍は13年9月のIOC総会最終プレゼンで「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています」と大嘘をついたのである。例の「アンダーコントロール」だ。開催日が迫るにつれ、ツジツマが合わなくなり、ホコロビがどんどん大きくなっている。弥縫策もまたデタラメのオンパレードである。


 深刻なのは、運営を支えるボランティア不足も同様だ。東京都は五輪・パラリンピックの会場案内やアテンドなどの9分野で計8万人のボランティアを募集しているが、とても間に合わない。それで、スポーツ庁と文科省は全国の大学と高等専門学校に対し、学生がボランティアに積極参加できるように授業や試験日程の柔軟な対応を求める通知を出し、鈴木五輪相は「具体的な取り扱いは各大学の判断になる。適切に判断されることが期待される」と圧力までかけたのである。学生の本分である学業を横に置いて、国家イベントへの参加を強要するとは、戦時中の学徒動員さながらだ。


 元文科官僚の寺脇研氏(京都造形芸術大教授)は言う。


「筋違いもいいところで、これはトンデモない通知ですよ。憲法23条は学問の自由とともに、それを担保する制度的保障として大学の自治を認めています。今回の通知は大学の自治を侵す行為で、憲法違反です。安倍政権は国公立大に入学式や卒業式で日の丸掲揚と君が代斉唱を要請し、文系学部廃止を打ち出すなど、教育への介入を繰り返している。なし崩しに口出しが常態化する中で、文科省も感覚がマヒしているんじゃないか」


 解釈改憲で集団的自衛権の行使を可能にし、立憲主義を踏みにじった安倍には屁のカッパなのだろう。


 来場が予想される観客数は五輪780万人、パラ230万人。人口1311万人を抱える首都東京にそれに匹敵する人が押し寄せる。最高気温が40度に迫る中、ラッシュ時の大混乱、企業活動への悪影響、物流機能にも支障が出かねない。東京都は「時差ビズ」と称し、通勤時間をズラす「時差出勤」や在宅勤務の「テレワーク」を広め、個人のネット通販の自粛まで呼び掛けるメチャクチャ。どれもこれも焼け石に水だ。


■「会場で見たいと思わない」53・4%


 国際社会を欺き、最高の安全性、最高の季節だとか嘘八百を並べて誘致した手前、たった2週間の狂乱に費やされる膨大な税金は2兆円を超え、3兆円に達しかねない状況だ。そこに、「日本人ならやれる」と言わんばかりの精神論の押し付けである。


 森喜朗は日刊スポーツ(24日付)でこう力説していた。


「この暑さでやれるという確信を得ないといけない。ある意味、五輪関係者にとってはチャンスで、本当に大丈夫か、どう暑さに打ち勝つか、何の問題もなくやれたかを試すには、こんな機会はない」


 バカバカしさだけが際立ってきたオリンピック強行に世界はもちろん、マトモな国民はドッチラケだ。


 時事通信の世論調査(6~9日実施)では「開閉会式や競技を会場で見たいか」の問いに「見たいと思わない」の回答が53.4%となり、「見たいと思う」の45.6%を上回った。「見たいと思わない」理由は、「テレビなどで見れば十分」が69.7%と大半を占め、「会場が遠くて大変」42.2%、「熱中症などが不安」も15.7%に上った。


 開催に関する不安要素は「開催費が大幅に膨らみ、税金で穴埋めされる」が46.2%。「犯罪やテロの標的にされる」43.8%、「渋滞や混雑で交通機関の利用が不便になる」33.8%という結果だった。


「オリンピック憲章はスポーツと文化、教育の融合を探求し、いかなる差別も禁じ、何よりも人権に重きをおいています。学生へのボランティア強制は教育の機会を奪うだけでなく、労働力の搾取になる。自民党は所属議員のLGBT差別発言を容認している。人権無視が横行するこの国に五輪を開催する資格があるのか」(五野井郁夫氏=前出)


 日本人の脳ミソは溶け始めているのか――。国際社会にそう見られても致し方がない異常事態である。
(日刊ゲンダイ)
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