松尾篤興のブログ「閑話放題」

今迄にない科学的な整合性から導かれた正しい発声法から、日本の政治まで、言いたい放題の無駄話。

黒い星から来た歌手達 第5回 声区1


声区と云う言葉をご存知でしょうか、声種は皆さんもご存知のソプラノ、アルト、テノール、バスなどと呼ばれる人の声の種類の事ですが、声区はパイプオルガンに擬えた考え方で、パイプオルガンのパイプは木製管、金属管、(フルー管、リード管)などの種類がありますが、人の声をこれに例え、音域によって区分けしたものと考えて頂ければ宜しいかと思われます。
現在使われている声区はベルカントでは喚声点(passaggio)で2つに分けた2声区、低音を胸声(voce di petto)高音をファルセットまたは頭声(voce di testa)と呼び、女声の場合、胸声、頭声をともに実声とし、男声の場合ファルセットは裏声と呼び、アペルトでもアクートでも共に実声としたので混乱が生じてしまいました。
元々声区の分け方は1〜無数声区まであり、ベルカントでは2声区、ドイツ式では胸声、中声、頭声、の3声区などが有名ですが、流儀によって解釈が異なり定説が見当たらないのが実情です。したがって実声と呼ばれる声でも科学的な整合性は薄く、単に聞いた印象によるものであると言わざるを得ません。
声区を説明する前に男性と女性の声帯の違いについて認識しておく必要があるのです。女性の声帯の長さは11〜17mm、男性の声帯の長さは17〜23mmとされています。勿論個人差はあるにしても女性の一番長い声帯は(つまりアルトですが)男性の最も短い声帯(テノール)と同じ長さと云う事になります。
女性の中央C4 は男性の C4 に相当するため、実音のピッチは1オクターブの差があると云われています。声帯の短い女声は疑似パッサッジョを過ぎると容易に頭声に(つまり男声のファルセットに当たる裏声ですが)移行することができますが、声帯の長い男声の場合、パッサッジョを過ぎると声は裏返る、ファルセットにはなっても頭声へ移行するのは厄介なのです。これは両者の声帯の長さが大部分の原因となっていますが、ここで大切な事は両者とも頭声は実声ではなく飽くまでも倍音によって作り出されたものだという理解が必要だと云う事でしょう。

整理のため図を示しておきましょう。女声の場合疑似パッサッジョを過ぎると実声(地声)は出なくなりファルセットになりますが、ファルセットとは云わず、裏声と呼ばれているようです。由紀さおりさんの声が一番わかり易い例だといえます。これは男声のファルセットに相当するもので声帯靭帯だけを使って歌うと、透明度の高いビブラートの無い裏声になります。この裏声に声唇(声帯筋)の働きが加わると声帯は閉じられ頭声と呼ばれるビブラートのついた倍音が誕生するのですが、声の響きやビブラートの具合などから倍音ではなくいつの間にか女声の実声と呼ばれるようになりました。次回は男声のアクート(頭声)についてお話ししましょう。
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