日本のPCR検査数が少ないのは、SARSやMERSを教訓とせず、「選択と集中」というやり方で公衆衛生を無駄だとして切り捨ててきたからだと述べた。
そのために、本来なら感染症の研究と疾病予防ができるCDC(疾病対策センター)のような司令塔をつくるべきだったのに、日本は無視してきた。また、たとえ日本版CDCがなくても、新型コロナウイルスの感染拡大を予見してすぐさまつくればよかったのに、できなかったのは、肝心の保健所を大幅に減らし、検査する地方衛生研究所の人員や予算も大幅に減らし、防疫を担える人材がいなかったからだろう。
2月ごろの日本のPCR検査は300件前後だったが、7月中旬の検査能力は3万2000件を超えている。しかし実際の検査数は、1日に2万件を超えたのは1回だけで、現実は検査能力の半分にも満たないのだ。
当初はすぐに自前の検査キットをつくることもできず、海外から輸入もできなかったので仕方ない面もあったが、今はスイスのロシュの試薬が入ってきて検査拡大が可能になっている。ところが、先ほども述べたようにPCR検査に関わる人員が不足していて、検査ができない状態が続いているのだ。
では、このまま検査ができない状態が続くのは仕方のないことなのだろうか。
そんなことはないはずだ。例えば検査が“目詰まり”している原因のひとつは、少ない保健所に大きな負担がかかっていることだが、それらの負担を軽減してやればいい。陽性者の感染ルートを追跡することに時間がかかっているといわれるなら、追跡調査を別の組織に任せるべきだろう。負担を軽減できる部分はどんどん委託して、保健所を最大限に活用することだ。
臨床検査技師の育成は時間がかかるため、すぐに増やすわけにはいかないが、PCR検査方法は随分進化している。例えば唾液による検査の登場もそうだ。検査機器も、値段は張るが全自動PCR検査機も登場している。人材の育成ができなければ、これら進化した検査機器を使うしかない。
そして最も重要なことは政治力だろう。莫大なお金と大量の人員を総動員する防疫は政治力がなければできない。とりわけ新型コロナの問題は、1人の命を犠牲にするか100人の命を救うかといった「トロッコ問題」のような選択を迫られる。これができるのは強い政治力しかない。医療や介護など感染リスクが高い人にPCR検査を充実させれば、感染の広がりを抑えられるという報告もある。これができるのも政治力だ。敗戦以来、今ほど日本の政治力が問われることはないと言っていいだろう。それなのに国会が2カ月近くも開かれず、首相がまともな会見もしない現状が私には信じられない。手遅れになったら、どうするつもりなのだろう。
(日刊ゲンダイ・奥野修司)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◉Mazzuola Editore ダイレクトセール・松尾出版直販(送料無料)
http://mazzola-editore.easy-myshop.jp
◉Amazon
https://www.amazon.co.jp/美声を科学する-松尾篤興/dp/4990812808/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1521368401&sr=8-1&keywords=美声を科学する